ボウレとフロック

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ボウレというドイツ語があるんだそうですね。 bowle 。ボウレは英語の「パンチ」のことなんだとか。
いろんな酒を混ぜて作る飲み物。 punch 。「パンチ」は古いインド、ヒンディー語から来ているとの説があります。ヒンディー語の「パンク」から、パンチが。「パンく」は五つの意味で、「五つの酒を混ぜる」の意味だったそうですね。
それはともかく、森 鷗外の『かのやうに』に「ボウレ」が出てきます。

「ボオレと云つて、シャンパンに葡萄酒に砂糖に炭酸水と云ふやうに、いろいろ混ぜて温めて、レモンを輪切りして入れた酒を…………」。

『かのやうに』は、明治四十五年に発表された物語。森 鷗外の小説の中で、「秀麿物」と呼ばれている読み物。「五條秀麿」が主人公となるので、その名前があります。そして結局のところ、「五條秀麿」は森 鷗外自身がモデルなのです。つまり「ボオレ…………」は、ドイツ時代を想い起こしているわけですね。
『かのやうに』の中に、秀麿の友人、綾小路という人物が出てきます。秀麿と綾小路は、巴里で再会。秀麿は、つまりは鷗外はベルリンに行く前、巴里に立ち寄っている。そして綾小路の案内で、服を誂えています。
ベルリンに住むのなら、ベルリンで作ることもできたでしょう。が、それとは別に、巴里でも新調したものと思われます。ということは、鷗外はドイツも服も、フランスの服も持っていたのに違いありませんね。
森 鷗外の『女がた』に。

「それで衣裳が旨く附くかい。」

という科白が出てきます。「附く」も、おそらくは明治語なのでしょう。これは「着付け」こと。身体に衣裳が「附く」。要するに、着こなし上手とも理解できるでしょう。今は遣われなくなった言葉にも、佳い表現はあるものですね。
『藤棚』もまた、「秀麿物」のひとつ。これは鷗外が、岩崎邸の音楽会に招かれ話。鷗外はなにを着て行ったのか。

「男は大抵黒のフロックコオトで………」。

ということは鷗外もまた、フロック姿だったのでしょう。一生に一度くらい、フロック・コートを着てみたいものですが。でも、「附く」か「附かないか」、それが問題ですが。

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