ガリ版とカラー

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ガリ版というのが昔、ありましたよね。いや、「ガリ版」は今でもあるんだそうですが。ガリ版は、謄写版印刷とも呼ばれたものです。私の学校時代の試験問題は例外なく、ガリ版刷りだったものです。
ガリ版刷りは、ごく簡単な、軽印刷機。自分の手で、すぐに印刷が出来てしまいます。原稿はもちろん、手書き。鑢のような専用の板に上で、鉄筆で書く。紙は、蠟紙。
鑢の上に蠟紙を乗せて鉄筆で書くと、書いたところだけ、蠟が剥げる。これで、原稿の完成。後は刷りたい紙の上に蠟を乗せて、インクを含ませたローラーを走らせる。ただちに印刷ができます。まことに、便利でありました。
辻 邦生の『青春のなかのトーマス・マン』に、ガリ版の話が出てきます。

「授業では望月市惠教授が『来たるべきデモクラシーの勝利』をガリ版刷りで読んでいた。』

辻 邦生が学生の頃ですから、戦前のことなんでしょう。トーマス・マンの本が少なくて、ガリ版刷りのものが出回っていたものと思われます。
トーマス・マンの代表作と言って良いものに、『ブテンブローク家の人々』があります。この中に。

「顎が食いこんでいる堅い古風なカラーには絹のネクタイが巻いてあり、これが派手なチョッキの胸あき全部を隠していた………………」。

これは、ヨハン・ブテンブロークの着こなし。ヨハン・ブテンブロークは時代を超えて、クラッシックな服装しか着なかったという説明のところに出てくる描写なのです。
襟の高さ、堅さは、好みの問題でしょう。が、十九世紀の紳士が、よりハードな、はい・カラーを好んだのもまた、事実なのです。
どれひとつ、ガリ版刷りで、書き遺しておきましょうか。

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