ピグマリオンとピン

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ピグマリオンの話は、よく知られていますよね。ピグマリオンは、もともとはギリシアの神話。ピグマリオンは、神話の中の、キプロス島の王という設定。
ピグマリオンは何日もかけて、理想の女性像を彫りあげて。その彫刻像に、「ガラテア」と名づけて、愛するように。
そのピグマリオンの様子を見た神が、「ガラテア」に生命を与えて、ふたりは幸せに暮したという。
このギリシア神話に想を得て戯曲を書いたのが、ジョージ・バーナード・ショオ。『ピグマリオン』であります。この『ピグマリオン』が映画されて、『マイ・フェア・レディ』となったわけでね。
ところが、むかしの巴里には「ピグマリオン」という百貨店があったんだそうです。フランスの作家フィリップの小説、『ビュビュ・ド・モンパルナス』に出てくるから、ほんとうなのでしょう。

「百貨店はことごとく、ピグマリヨンも、プチ・ザニヨオも、ラ・クール・バタヴも、ル・メイユール・マルシェ・デュ・モンドも、みんな閉まつてゐる。」

これが物語の書き出しなんですね。『ビュビュ・ド・モンパルナス』は、シャルル・ルイ・フィリップが、1901年に発表した物語。1900年頃の巴里には、「ピグマリオン」という百貨店があったものと思われます。
話はかわりますが。今、引用させて頂いた部分は、昭和九年の翻訳。訳者は、小牧近江。そんなわけでところどころに、伏字があります。伏字とは、「××××××」という印刷のこと。むかしは検閲があって、上品ならざる箇所は伏字にした。「××××××」。いったいこの裏には何が隠されているのか、興味津津だったものです。それはさておき。『ビュビュ・ド・モンパルナス』に、こんな描写が出てきます。

「彼等は新しいカラーと、派手で落ちつきのあるネクタイとをつけ、それをキラキラしたピンで留めてゐる。」

「派手で落ちつきのあるネクタイ」と、訳文にはあります。不思議な形容ではありますが。
「ピン」が、ネクタイ・ピンであるのは言うまでもないでしょう。当時の着こなし方は、たいてい、ネクタイの結び目の下をピンで留めたものです。
お気に入りのタイにピンを留めて、わが「ピグマリオン」を探しに行くとしましょうか。

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