スプーンは便利な道具ですよね。第一、カレーライスを食べるのに、重宝いたします。カレーライスを箸で口に運ぶには、難儀ではありませんか。
ましてボルシチを頂くには、ちょっとスプーン以外には考えられませんよね。
「銀のスプーンを口にくわえて生まれた」といえば、良家の子弟ということになっています。では、どうして金ではなくて、銀なのか。ただし金のスプーンの言い方もないではありませんが。
事実、中世の王室などでは銀の食器を使ったらしい。これはどうも毒に反応する金属だと考え考えられていたからなんだそうですね。
また、中世の一般人にとってスプーンをはじめとする食器は貴重品で、旅には持参することが多かった。たとえば宿に泊まって、食事の時間。料理は宿で出すけれど、スプーンなどは並べない。客のほうで持っているから。
この習慣が最後まで遺ったのが、ナイフ。スプーンとフォークはさておき、なにはともわれ、ナイフだけは自分のを使ったという。
ヨーロッパの郊外の、古いレストランでは、かなり最近まで、ナイフを出す習慣がなかったのは、そんなこともあったからだと。
スプーンが出てくる小説に『西部戦線異状なし』があります。1929年に、レマルクが発表した物語。
「炊事上等兵は、誰でもそばを通る奴を、スプウンでおいでおいでをして、やってくると、うんと大盛りにもってくれた。」
また、『西部戦線異状なし』には、こんな描写も出てきます。
「白いズボンをはいて、青いスウェエタアに、ヨットに乗るときの帽子をかぶっている。」
これは、秦 豊吉の翻訳によるものです。訳者、秦 豊吉は、作者、レマルクに会いに行っています。
昭和八年の五月。スイス、アスコナの、レマルクの自宅に。秦 豊吉が家の呼鈴を押すと、レマルクが出て来て。ブルーのシャツにグレイのズボンを穿いていたそうです。
これに触発されるわけではありませんが、ブルーのスェーターに、グレイのフランネルを穿いてみたい。
もちろん、ボルシチを食べるにも、最適でありましょう。