男仕立ては、「タイユール」 t a i ll e ur のことですね。
タイユールのもともと意味は、英語の「テイラー」。それを婦人服の世界で使うと、「男仕立て」の意味。あるいは、男仕立ての服。
とてもお美しくて、女らしいお方が、きりっとタイユールをお召しになっていると、ぐらっと魂がとろけてしまうものです。
言葉の中に「男」がついているのに、悩ましい女の意味になります。ちょっとこれに似たものに、「男嫌い」があるでしょうか。「男嫌い」は女だけに用いられるので。
「何しろ『男嫌ひ』で通して來たといふ女だからね。」
小山内薫が、大正元年に発表した長篇『大川端』にも、そのように出ています。
小山内薫と藤田嗣治とは、親戚だったという。小山内薫のほうが、五歳年長。
むかし、小栗 信という人物がいて。小栗上野介の末裔。この小栗 信の長女が、小山内建の妻となって生まれたのが、小山内薫。
小栗 信の次女が、藤田嗣章に嫁いで生まれたのが、藤田嗣治。藤田は優れた画家。小山内は優れた脚本家でありました。これも小栗家の血統なのでしょうか。
いや、たしかタイユールの話をしていたはずなんですが。小山内薫については存じませんが、藤田嗣治は洋裁の腕たしかでありました。「シンガー」のミシンを踏んで、男物も女物もお茶の子さいさいだったという。
洋裁には寸法が欠かせません。ふつうセンチやインチを。けれどもむかしの巴里では、「オーヌ」 a unn e を使った。一オーヌは、1、188センチ。十八世紀のフランスでは「オーヌ」で測り、オーヌで服を仕立てた。
1837年に法律で廃止されるまではずっと「オーヌ」が共通単位だったのです。
まるで「オーヌ」で仕立てたかのようなクラッシックなスーツを着て。タイユールが似合う女を探しに行くとしましょうか。