モオパッサンとモスリン

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モオパッサンは、フランスの小説家ですよね。ギイ・ド・モオパッサン。フランスの誇ってよい宝であります。
わずか十年ほどの間に、あれほど質の高い名作をあれほど多く書いたのは、ちょっとした記録でありましょう。
まったくの一例ではありますが。モオパッサンが、1833年に発表した短篇に、『宝石』があります。
1830年ころ、巴里に倹しい夫婦が住んでいた。奥さんは美人で、良妻。でも、たったひとつだけ「趣味」があって、安物宝石を買い漁ること。このイミテーションあさりのために、ときどき家を開けるくらい。
その奥さんがある日、ぽっくり逝ってしまって。後に遺されたのは、ガラクタ宝石の山。
旦那はふと思うところあって、イミテーションを巴里の宝石屋で、鑑定。なんと、これが、本物。「ガラクタの山」が、ぜんぶ本物の宝石。
モオパッサンはさらりと、それだけしか書いていないのです。短篇。でも、読後に拡がる「宇宙」には深い人生感があります。
モオパッサンを尊敬したのが、永井荷風。

「私は、どんな事をしても、フランスへ渡って、先生のお書きになった世の中を見たい、もし、此の志が遂げられなければ、私は例へ、親が急病だと云つても日本へは帰るまい、と思ひました。」

永井荷風著『ふらんす物語』には、そのように書いています。章題は、「モーパッサンの石像を拝す」なのです。「先生」がモオパッサンであるのは、言うまでもないでしょう。
同じ『ふらんす物語』に、「新嘉坡の數時間」も収められています。

「メレンスの赤い帯を後で結び、筒袖の單衣を着てゐたが……………………。」

メレンスは、日本語。正しくは、「モスリン」。十九世紀はじめには、クラヴァットの生地としても、用いられたことがあります。
モスリンのスカーフを結んで、モオパッサン像を参拝したいものですが。

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