バスケットとパラソル

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バスケットは、籠のことですよね。たとえば籐なんかで編んだ籠。大きいのから小さいのまでたくさんあって、軽い。軽いばかりか風通しもよろしい。今はさておき、昔は手ごろな容れ物、鞄としてよく使われたもの。
幼稚園の往き帰りにも、この小さな、オモチャみたいなバスケットが付き物でありました。バスケットが出てくる小説に、『三四郎』があります。明治四十一年に、夏目漱石が発表した物語。

「座敷へ來て見ると、座敷の眞中に美禰子の持つて來たバスケットが据ゑてある。」

このバスケットの中には、サンドイッチが入っていて。もっとも夏目漱石は、「サンドヰツチ」と書いているのですが。
このサンドヰツチに、ワインを飲むのか、どうか。同じ『三四郎』の中に。

「突然コツプにある葡萄酒を飲み干して……………………。」

とあります。三四郎が「青木堂」でワインを飲む場面。「青木堂」は明治の頃、本郷三丁目にあったハイカラな店。ハイカラだからワインも飲ませたのでしょう。三四郎ばかりか、漱石もたぶんワインを飲んだものと思われます。
バスケットが出てくる随筆に、『岬の風景』があります。『岬の風景』は、大正十五年に、井伏鱒二が書いた名文。

「私はなるべく東京の街から目を反らしたく思つて、座席の横に置いたバスケットに瞳をおとした。」

また、『岬の風景』には、こんな描写も。

「私は朱色のパラソルを買つて来た。」

これは主人公がある「娘」に贈るために。でも、私は炎天下には男もパラソルが欲しいと、思うひとりであります。
パラソルを入れておく、細長いバスケットがあるといいなあ。

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