ブロンドは、金髪のことですよね。今、「金髪」と「ブロンド」。どちらが多く使われるのでしょうか。
一体全体、「ブロンド」の言葉、いつ頃から用いられているのか。
「美人の骨は日本種と見ゆるに、その髪は「ブロンド」なるは、いかなる故ともわきまへがたかりき。」
森 鷗外が、明治二十四年に発表した『上野公園の油画彫刻会』の一節に、そのように出ています。私は今のところ、これより古い「ブロンド」を探せないでいます。
カギ括弧つきではありますが。森 鷗外は比較的はやい「ブロンド」の紹介者だったのではないでしょうか。これは一種の美術評論で、ある絵を観ての、鷗外の感想なのですが。
森 鷗外といえば。井伏鱒二の随筆に、『森鷗外に関する挿話』があります。井伏鱒二は、このことについては、何度か書いています。よほど印象に残ったものと思われます。
井伏鱒二が中学生の頃、森 鷗外に手紙を書いた話。ちょうどその頃、森 鷗外が新聞に『伊沢蘭軒』を連載中で。井伏鱒二は、鷗外の小説に、異論の手紙を。
結論だけを申しますと。やはり鷗外の『伊沢蘭軒』のほうが正しかったのですが。
鷗外は、丁重なる返事を井伏鱒二に書いた。そればかりか井伏鱒二の手紙に少し手を入れて、全文紹介した。その引用文について、井伏鱒二は。
「この私の手紙の文章は、鷗外の手でところどころ添削されたもので、私はこれを読んで大いに驚いた。テニオハをちょっと変へ、語辞を入れかへるだけで、私の稚拙な文章が生れかはつて大人びてゐた。文章の秘密は怖しい。」
そんなふうに書いています。
ブロンドが出てくるミステリに、『沈黙』があります。1999年に、ロバート・B・パーカーが発表した物語。
「女はブロンド、中背、筋肉質で濃く日焼けしている。」
これは、ラモント夫人の様子。また、『沈黙』にはこんな描写も出てきます。
「茶色のハリス・ツイードのジャケット、黒絹のポケット・チーフ、黒のタートル・ネック、ぴかぴかのエンジニア・ブーツにプレスしたジーンズをはいている。」
これは、大学教授の、バス・メイトランドの着こなし。「プレスしたジーンズ」は、アメリカの伝統であります。
十九世紀末から、二十世紀はじめにかけてのカウ・ボーイは二種の「リーヴァイズ」を持っていた。ひとつは、作業用。ひとつは、サルーンなどに行くためのおしゃれ用。このおしゃれ用「リーヴァイズ」にはたいていその前後に、クリースを配したものです。
たまにはプレスしたジーンズで、ブロンド美人を探しに行くとしましょうか。