トロイカとトックリ

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トロイカは、わりあいよく耳にする言葉ですよね。たとえば、「トロイカ方式」だとか。
指導者が三人であるような場合に、「トロイカ方式」。トロイカ tr o ik a は、もともとロシアの馬車のこと。三頭の馬で牽かせるので、トロイカ。ここから「トロイカ方式」の表現が生まれたのでしょう。ロシア民謡にもありますね。

♬ 雪の白樺並木 夕日が映える 走れトロイカ…………。

もちろん題名も『トロイカ』。たしかダークダックスも歌っていたような記憶があるのですが。
トロイカが出てくる小説に、『シベリヤの旅』があります。1890年に、チェホフが発表した物語。というよりも紀行文でもありますが。チェホフは実際にシベリヤに旅しているのですから。単なる想像で書いた文ではありません。

「夢の中で私は帰って食事をしながら、自分の二頭立が郵便のトロイカと衝突した話を、家のものにして聴かせる。」

このチェホフの『シベリヤの旅』から生まれたものに、『がたくり馬車』があります。三浦哲郎が、昭和四十九年に発表した短篇。

「チェホフの小説を読んでいると、<がたくり馬車>というのが出てくる。」

これが、『がたくり馬車』の第一行なのです。チェホフの『シベリヤの旅』に出てくる「がたくり馬車」は、いったいどんな馬車なのか。そんな三浦哲郎の疑問から、『がたくり馬車』ははじまるのです。

「雪の野、北海道の天地と、馬橇は、トロイカは走る。」

小林多喜二が、1928年に発表した『東倶知安行』にも、トロイカが出てきます。ここでは「馬橇」になっています。馬橇を、三頭の馬で牽かせるのでしょう。そして、当時の北海道にもトロイカはあったものと思われます。
もう一度、三浦哲郎に戻ります。三浦哲郎が、昭和四十七年に発表した短篇に、『楕円形の故郷』があります。この中に。

「彼はトックリセーターにジーパンだけで…………」。

『楕円形の故郷』には、何度か「トックリセーター」が出てきます。トックリ首のスェーターなので、「トックリセーター」。もし漢字で書くなら、「徳利首」。銚子の首に似ているから。
つまり、タートル・ネックのこと。ロール・ネックのこと。ひと時代前には「トックリ」と言ったものです。
トックリもトロイカも、遠いむかしの記憶になってしまいましたね。

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