馬は、はやく走る動物ですよね。そして、力が強い。「馬力」というではありませんか。英語でも、「ホース・パワー」。
馬はいざとなると、時速70キロくらいで駆けることができるんだそうですね。ちょっとした自動車くらいの速さ。もっとも自動車が登場する前には、馬が多く使われたわけですからね。つまり、名車があるように、「名馬」があったわけです。
たとえば、「マレンゴ」。マレンゴはナポレオン・ボナパルトの愛馬。ヴァーネットが描いた『アルプス越えのナポレオン』で、ナポレオンを乗せているのが、マレンゴ。ナポレオンはマレンゴに乗って、アルプスに行ったんですね。
あるいは、「ケレル」。ケレルは、ロオマ皇帝ルキウス・ウェルスの愛馬。与えるものは、アーモンドとレーズン。着るものは、紫のブランケット。宮殿の中に、厩舎があったという。
よく知られているところでは、「ブケパロス」B uc eph al us 。アレキサンダー大王の愛馬。ブケパロスはアレキサンダーを深く信頼し、大王以外の人間は決して乗せなかった。また、アレキサンダー大王が乗る時には、低く、跪いて、乗せたそうですね。人に「名人」があるように、名馬があったのも事実なのでしょう。
馬と題につく短篇に、『馬に乗って』があります。モオパッサンの傑作。モオパッサンが1880年代に発表した物語。この中に。
「さっそく、彼は馬を検査するためにおりてきた。ズボンにはもうちゃんとスーピエをつけさせておいたし、鞭もきのうのうちに買ってあった。」
これは、エルトルという男の様子。「スーピエ」は靴裏に通しておく留帯のこと。このスーピエで、パンタロンを引っ張っておくもの。
ギイ・ド・モオパッサンは、星の数ほどの小説を書いています。が、そのほとんどが、1880年代の十年間に書かれています。まあ、「名人」なんでしょうね。それも、ごく稀な。
やはりモオパッサンの短篇に、『あな』があります。この中に。
「白の雲斎布の上着を着て、大きな麦わら帽子をかぶっていましたよ。」
この「雲斎布」は、何度か出てきます。雲斎布は、雲斎織のこと。厚手の、木綿の、綾織地。今でも足袋底に用いられるのが、雲斎織。
「およそ冬は皮を用ひ、春秋は木綿を用ふ。また兜羅綿・雲斎織等あり。」
『近世風俗志』にも、そのように出ています。江戸期には、雲斎織の足袋もあったのでしょう。
厚く、丈夫なコットンなら、たしかに上着を仕立ててみたくもなりますね。
乗馬服にも最適でしょうし。