ボオは、伊達者のことですよね。b e a u と書いて「ボオ」と訓むわけです。
よく知られているところでは、「ボオ・ブランメル」でしょうか。とにかく英語の辞書に、 B e a u Br umm el として出ているくらいのものですから。
ボオ・ブランメルの本名は、ジョージ・ブライアン・ブランメル。でも、あまりにも洒落者であったので、誰もが「ボオ・ブランメル」の通称で呼んだという。とにかく後のジョージ四世が皇太子であった時代、摂政のおしゃれの先生だった人物であります。
でも、ボオ・ブランメル以前に「ボオ」がいなかったわけでもありません。
たとえば、「ボオ・ナッシュ」B e a u N ash 。本名、リチャード・ナッシュ。温泉地、バースを上品な町にしたのは、ボオ・ナッシュのおかげという説があります。
あるいは、「ボオ・フィールディング」 B e a u F e il d ing 。1712年に世を去った、ロバート・フィールディング。かのチャールズ二世が、「ハンサム・フィールディング」と呼んだくらいのお方だったそうです。
さらには、「ボオ・ヒューウィット」 B e a u H ew itt 。1676年に出た『流行紳士』の主人公、サー・フォップリング・フラターのモデルは、実は、ボオ・ヒューウィットであったらしい。
ということは、少なくとも1676年頃には、「ボオ」すなわち「伊達者」の言い方が一般的になっていたものと思われます。
では、日本ではどうだったのか。
「又だて者というふも巧者だて男達などの立にあるを、伊達家の従士が衣服の美麗なりし事有ければ、それより始まれりといへるも同日の談なり 」
喜多村信節著『嬉遊笑覧』には、そのように出ています。日本での「伊達者」も、かなり古いのでしょう。また、『嬉遊笑覧』でもその訓みは、「だてしゃ」になっているのですが。
「伊達者」が出てくる小説に、『ジョウゼフ・アンドルーズ』があります。1742年に、ヘンリイ・フィールディングが発表した物語。
「ブービー夫人がダイヤモンドの袖どめを取り出すと、伊達者は即座にそれは私のだといい、私は夢遊病のくせがあるのでと申し立てた。」
この「伊達者」の名前は、ダイダッパー。シャツのボタンをどこかに落として、困っていた場面。「袖どめ」は、おそらく当時の「スリーヴ・ボタン」のことかと思われます。今のカフ・リンクス以前のボタン。
カフ・リンクスであろう、スリーヴ・ボタンであろうと、ダイヤモンドは憧れの的ですが。
まあ、そんなことではボオになるのも、はるか遠い話であります。