黒檀とコティ

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黒檀は、エボニーのことですよね。木の名前。紫檀は、ローズウッド。白檀は、サンダルウッド。
中でも黒檀は、くるいのないことで、好まれる木材。どうしてくるいがないのか。その成長がゆっくりだから。より緻密な材質となってくれるわけですね。
たとえば、ピアノの黒鍵。ピアノの黒鍵は黒檀が使われることが多いらしい。また、ヴァイオリンの指板にも、黒檀が向いているんだそうです。
紳士用なら、ステッキ。黒檀のステッキは高級品とされます。また、ヘア・ブラシの甲の部分に向いているんだとか。

「ケラーダ氏のブラシというのは、金の組み合わせの頭文字をはめこんだ黒檀製のものだったが………………。」

モオムが1920年代に発表した短篇『物識先生』の一節。これは、マックス・ケラーダという英國人の持ち物。
「わたし」は、サンフランシスコから横濱へ、船で向おうとしているところ。その船室での相客が、マックス・ケラーダという設定。モオムの『物識先生』もまた、さりげない傑作であります。この一作を読んだだけでも、モオムのことが好きになるはずです。
マックス・ケラーダはまた、「コティ」の愛用者でもあります。

「化粧台の上には、コティの香水、コティの髪洗粉、コティのチックが並んでいたからである。」

大正時代に、コティを扱っていた人に、佐田稲子がいます。

「コティのロリガンか赤箱の香水を一罎買ふ。もし赤箱香水が三越で五圓五十銭してゐて、自分の賣場の赤箱香水の値が、それより高いならば私は店へ歸つて同じに下げなければならない。」

佐田稲子著『私の東京地圖』に、そのように書いています。
佐田稲子は、大正十一年、十八の時、「丸善」洋品部の店員になったいるので。
佐田稲子は、「丸善」の前、上野の料亭「清凌亭」の座敷女中に、なっています。
この時の客のひとりに、芥川龍之介がいて。佐田稲子が、芥川に本名をいうと。「田島いね子」。これを聞いた芥川龍之介は。
「明治には、田沢稲舟という女流作家がいてね……………………。」
「田島いね子」は、ここから作家にでもなろうか、と思ったという。
まあ、それはともかく。コティのコロンでも使ってみましょうか。黒檀のブラシに、モノグラムをいれるまではいきませんので。

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