ドイツは、ジャーマンですよね。戦前までのドイツには、ヒゲ文字が多かったらしい。装飾的な活字。専門用語なら、「セリフ」というのでしょうか。
活字の端に、ヒゲのような飾りが添えてあって。このヒゲ文字のため、戦前のドイツの若者に近視が多かった。そんな説があるくらいなんですね。
そのドイツに、ヴィクトリア女王が訪問した時。もちろん、十九世紀のことです。ドイツの町々は歓迎気分もいっぱいで。「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」などの貼紙が。
でも、よく見ると。セイヴ s a v e のところに、「h」が添えてあって。sh a v e に。この通りに訓みますと。「ゴッド・シェイヴ・ザ・クイーン」。神を女王の髭を剃り給え、に。
女王に髭はないので、いかに神様でも、いささか無理な話。まあ、十九世紀には、そんな冗句もあったということなんでしょうが。
星は流れ、時は移って。エリザベス女王の時代。1957月4月8日。エリザベス女王は、夫君とともに、フランス訪問。エリザベス女王にとってはこれが二回目のフランス訪問。最初は、1948年5月14日。二十二歳の、プリンセスの折。
1957年のエリザベス女王、フランス訪問には、両国ともに、腕に撚りがかかっていたらしい。国威掲揚の良き機会だと。
エリゼ宮殿での晩餐会は、選りすぐりの料理人が、「これ以上の料理は不可能」とまで言わせたものになったという。
フランスはモオドのお国柄。エリザベス女王がどんなお姿でお越しになるのか。数日前、あるフランスの新聞が予想した。「リヨンで織った生地で、ディオールのデザインであろう」。
その日。オルリー空港に到着されたエリザベス女王、まさにそのお召し物だった。これに対して怒ったのが、英国の報道陣。「秘密の漏洩だ!」。これに対する、バッキンガム宮殿の公式見解。
「この度は、まことに幸いなる偶然の一致がありましたようで………………」
まあ、服のことですから、これくらいのしゃれっ気は欲しいところですね。