幸福は、いいものですよね。私は絶対に幸福にはなりたくない。これはいささかつむじ曲がりの人の言葉でしょう。
人生の目的は、幸福に生きること。もし、そう言っても、それほど大きな間違いないないでしょう。
では、幸福とは何か。これが、難しい。ちょうど、空気とは何かと、問われるに等しい。たしかにそこに在るのだけれど、説明に窮する。
説明しにくい「幸福」を優しい言葉で説明したのが、アラン。フランス人の哲学者、アラン。アランの『幸福論』は、あまりに有名ですね。
「第一の規則は、現在のものにせよ過去のものにせよ、自分の不幸についてけっして他人に話さないということだろう。」
アランは『幸福論』の中で、「幸福となる方法」と題して、こんなふうに書いています。
なるほど。その通りだと思います。人は不幸を意識する時、不幸になり、幸福を意識する時、幸福になれるのですから。
わざわざ自分から選り好んで不幸の話をしても詰まりませんからね。どうせなら「幸福」を意識する話のほうがよいでしょう。
アランの「幸福となる方法」は、1910年『ラ・デペッシュ・ド・ルーアン』9月8日号に掲載されたものです。
アランが、『ラ・デペッシュ・ド・ルーアン』に、「語録」と題して連鎖をはじめたのは、1903年のこと。アラン、三十五歳の時。
『ラ・デペッシュ・ド・ルーアン』は、ノルマンディーの地方紙でした。が、そのうちに読者は、毎日の「語録」の切抜きをはじめるようになったと、伝えられています。
アランは、1900年からの筆名。本名は、エミイル・オオギュスト・シャルティエ。1868年3月3日に生まれています。シャルティエとしての本業は、先生でありました。
1909年からは、名門「アンリ四世校」の先生に。シャルティエが授業をはじめると、近隣の一般人が聴講に来たそうです。
1951年6月2日。シャルティエは、八十三歳で世を去っています。十九世紀の生まれとしては、長生きのほうであったでしょう。
1950年、シャルティエ、八十二歳の時の写真が遺っています。それを見ると、コル・シャーレの上着を着ているのです。
コル・シャーレは、私たちのいうショール・カラーのこと。フランスのシャーレ châl e には「ショール」の意味があるんだそうです。
ショールの意味としては、1793年頃から用いられているとか。
シャルティエのように、コル・シャーレの上着を着ると、幸福になれるのに違いありませんね。