おやつとオーヴァー

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おやつは、間食のことですよね。今ふうの言い方で申しますと、「ハイ・ティー」にも似ているのでしょうか。
午後三時前後に頂く茶と小菓子のこと。「お三時」とも。
江戸初期までは、一日、二食。朝と夜。これでは午後二時頃になって、空腹に。その虫ふさぎに食べたのが、「間食」( かんじき) 。それで元禄以降、一日三食が定着して、「おやつ」になったんだそうですね。
「八つ時」はむかしの時間なので、明治になってからは一部、「お三時」ともいうようになったんだとか。

「延子さんあなた今でもお八ツ召しやがって」

夏目漱石が、大正五年に発表した『明暗』に、そのような科白が出てきます。これは百合子が、延子に対しての問いかけとして。
木皿の上に「餅菓子」が出されたので。
漱石ご自身も、菓子がお好きだったらしい。「藤村の羊羮」は『吾輩は猫である』にも出てきます。それから洋菓子よりも和菓子のほうを好んだようでもあります。
和菓子も好き、駄菓子も好きだった。このあたりにも、漱石人気の秘密があるのかも知れませんが。
和菓子も洋菓子も同じくらいお好きだったのが、川端康成。
和菓子では、「喜久月」の、「あおうめ」が大好物だったという。
洋菓子では、以前、駒込にあった「カド」のプチフールにご執心で。ことに、丸い、ちいさな、チェリーを包んだ菓子がお好みで。最初に見たとき川端康成は。
「エロを感じますね」。
そんなふうに言ったとか。
川端康成が、昭和二十八年に発表した小説に、『川のある下町の話』があります。この中に。

「白つぽい色あひの、あたたかさうなオウヴア・コオトに手を通しながら、民子は義三を誘つた。」

川端康成は、「オウヴア・コオト」と書いています。もちろん、オーヴァーコオトのことでしょう。ov er co at 。
「上着に重ねるもの」の意味です。オーヴァーコオトのひとつの目的は、防寒。そしてもうひとつには、隠蔽。下に着ている服装を隠すこと。
オーヴァーコオトの上手な着こなしは、下の服をすっかり隠すことにあります。なぜなら、オーヴァーコオトを脱いだ時、鮮やかなコントラストが生まれるからであります。
どなたかコントラストの美を語るようなオーヴァーコオトを仕立てて頂けませんでしょうか。

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