ドンゴロスとドレス・スタッド

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ドンゴロスは、生地の名前ですよね。生地の名前なんですが、手元にある「生地辞典」には、「ドンゴロス」は記載がありませんでした。
それではと、「服飾辞典」を開いてみますと、やはり載ってはいません。
でも、たしかに昔、「ドンゴロス」の言葉を耳にした記憶があるのですが。
私の記憶に間違いがなければ、珈琲袋。珈琲豆を運んでくる袋はドンゴロスだと教えられたものであります。
余談ですが。ブルー・マウンテンだけはドンゴロスではなくて、木樽に入れて運ばれるんだとか。
ブルー・マウンテンはジャマイカの高山の名前。ブルー・マウンテン山脈の、800mから
1,200mの標高で栽培された珈琲豆だけが、「ブルー・マウンテン」を名乗ることができるんだそうですね。高貴な、深い薫りが特徴。ただし、けっしてお安くはありませんが。しかも本物のブルー・マウンテンを手に入れるのは、至難の業なんだとか。

「………ドンゴロス一杯よ、凄い力でしょう、ばか力ね……………………。」

1955年に、堀田善衛が発表した『記念碑』の一節に、そのように出てきます。
ただし『記念碑』の時代背景は、第二次大戦末期に置かれているのですが。
これは「康子」が、半ば焼けた米袋を運び出したときの様子として。ということは、戦時中には、米もまたドンゴロスの袋に入れることがあったのでしょうか。
そしてまた、「ドンゴロス」は、1940年頃からの言葉なのかも知れませんが。
ドンゴロスは意外なことに、英語の「ダンガリー」 d ung ar e e の日本語訛りから生まれているんだとか。ダンガリーがドンゴロスに。まあ、変われば変わるものでありますねえ。
ドンゴロスが出てくるミステリに、『盲目の理髪師』があります。1934年に、
ディクスン・カーが発表した物語。

「ドンゴロスのズボンに縞のメリヤス・セーターといういでたちのずんぐりした一等水夫で……………………。」

「一等水夫」なら、ダンガリーである可能性はあるでしょう。日本語訳は、井上一夫。井上一夫は、原文の「ダンガリー」を「ドンゴロス」と訳したものでしょうか。
それはともかく、『盲目の理髪師』には、こんな描写も出てきます。

「それにおふくろがくれたプラチナの飾りボタンもじゃ。」

これは元船長の、ヴァルヴィックの科白。
ここでの「プラチナの飾りボタン」は、おそらくドレス・スタッドのことかと思われます。
正装用シャツの前にあしらうための飾りボタン。一般にスタッドと申しますが、正しくは、
「ドレス・スタッド」 dr ess st ud です。
胸の飾りボタンが、二個以上になると、ドレス・スタッズ。ひとつなら、「ドレス・スタッド」。
一個のドレス・スタッドがもっとも古典的で、数が殖えるほど略式の着こなしになります。
どなたか一個のドレス・スタッドの、正装用シャツを作って頂けませんでしょうか。

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