ポオとボタン

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ポオで、作家でといえば、エドガー・アラン・ポオでしょうね。
ポオを愛読していた小説家に、芥川龍之介がいます。
芥川龍之介がポオを耽読。というのは簡単なことですが。明治末から大正時代のことを想えば、英米文学が今ほど近くはなかったでしょうに。
これまた、想像なのですが。当時の洋書専門店「丸善」などに頼んで、取り寄せてもらっていたのでしょうか。
芥川龍之介が大正年に発表した短篇に、『藪の中』があります。今の時代でも、なにがなんだか真相が分からないことを、「藪の中」などと言ったりも。これは実は、芥川龍之介の『藪の中』から出た形容句なのですね。
黒澤 明監督の映画に、『羅生門』があります。昭和二十五年の映画。あの『羅生門』は、主に芥川龍之介の『藪の中』に材を得ているのですね。
そしてまた、芥川龍之介の『藪の中』は、ビアスの『月明かり道』に想を得ている、というのが通説になっています。
『月明かりの道』は、アンブローズ・ビアスが、1907年に発表した短篇。芥川龍之介は、ビアスについて、こんなふうに言っています。

「短篇小説を組み立てさせれば、彼程鋭い技巧家は少ない。評家がポオの再来と云ふのは、確かにこの点でも当つてゐる。」

大正十一年の随筆『点心』の中において。ここに「彼」とあるのが、アンブローズ・ビアスであるのは、いうまでもないでしょう。
芥川龍之介の、大正十一年の、『点心』。これこそ、日本におけるアンブローズ・ビアスのはじめての紹介文でもあるのです。
「日本に、アンブローズ・ビアスを最初に紹介したのは、芥川龍之介である」。こう言っても、間違いではないでしょう。
そのアンブローズ・ビアスが、1890年に書いた小説に、『男と蛇』が。内容は、あえて申しません。最後の一行だけ。

「蛇は縫いぐるみで、目を靴の留めボタンだった。」

つまり、ひとつの縫いぐるみの蛇があって、その目に、靴のボタンが使われていたわけです。
十九世紀の靴は多く、ボタンド・ブーツで。脇をボタン留めにして、履いた。そしてその靴用のボタンは、縫いぐるみの「目」にも用いられることがあった。これまた、貴重なファッション資料でしょうね。

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