ポーカーフェイスは、「素知らぬ顔」のことですよね。「さあらぬ風」とも言えるでしょうか。
トランプのポーカー遊びをやっていて。自分に良い手がまわってきたとしても、飛び上がって喜んだりしないこと。「ふーん、まあまあね」なんて顔つき。すると相手は並の手札だと思って、どんどん賭けてくれて。最後に開いてみたら、ロイヤル・ストレイト・フラッシュだったとか。
そんな時にはポーカーフェイスが役立ってくれるわけですね。
ポーカーフェイスが出てくる小説に、『橋』があります。池谷信三郎が、昭和二年に発表した物語。
「………シイカがこんなに巧みなポオカア・フエスを作れるとは、彼は實際びつくりして了つたのだつた。」
「シイカ」は、女の人の名前。場所は当時のカリフォルニアに置かれているのですが。
池谷信三郎は、「ポオカア・フエス」と書いています。またこの『橋』という短篇には、何度も「ポオカア・フエス」が出てくるのです。
池谷信三郎の『橋』だけから推理すると、ポーカーフェイスは男より女のほうが一枚上なのかも知れませんね。
小説の中の「彼」は、シイカに「あなたにはモーニングがお似合いになるわ」と言われて、ただちに百貨店にモーニングを買いに行くのですから。
「しかし、そのポーカー・フェイスは、ついに最後までくずれなかった。」
花田清輝が、昭和四十二年に発表した『小説平家』にも、そのように出てきます。これは後白河法皇の様子。
源平時代に「ポーカー・フェイス」があったのか。でも、まあ、これは「小説」ですからね。ポーカーフェイスとは言わないまでも、古い日本にもそれに似た心の操りはあったでしょうが。
ポーカーフェイスが出てくるミステリに、『殺人は血であがなえ』があります。1957年に、イギリスの作家、ハドリー・チェイスが書いたハードボイルド物。
「………きついポーカーフェイスをした優秀な秘書といったタイプの若い女性だった。」
ジェイムズ・ハドリー・チェイスは、1906年12月24日に英国に生まれた文人。ハードボイルド小説を書くために、「アメリカ俗語辞典」などをたくさん買い込んで、それから筆を執ったそうですね。
『殺しは血であがなえ』には、こんな描写も出てきます。
「黒い上着を着て、グレイのウィスコードのズボンをはき、黒のネクタイをしている。」
これは富豪、リー・クリーディの秘書の男という設定になっています。
翻訳者は、田中小実昌。
ここでの「ウィスコード」は、ホイップコードではないかと、思われます。
wh ip c o rd と書いて「ホイップコード」と訓みます。むかしの英國ではよく乗馬ズボンに用いられて生地です。
急勾配の、しっかりとした綾織地。以前、アメリカでは自動車の座席にも使ったそうですから、頑丈であること、間違いなし。
どなたかホイップコードで、完璧なトラウザーズを仕立てて頂けませんでしょうか。