西洋は、ヨオロッパのことですよね。日本は海に囲まれた国ですから、一歩外に出ると異国という印象はあるでしょう。
今、洋食と言います。が、明治期には多く「西洋食」と言ったものです。西洋食を短くして、「洋食」。これは洋服も同じこと。明治には「西洋服」と呼ぶことが多かったんだそうですね。
だって以前は、「西洋館」と口にもしたではありませんか。衣食住のすべてにおいて西洋の影響を受けているわけであります。
「ロウマといふは、西洋イタリアの地名にて……………………。」
新井白石は、正徳五年に書いた『西洋紀聞』にそのように述べています。正徳五年は、西暦の、1715年ですから、古い。
同じく『西洋紀聞』 の中に。
「またカステイラと申すは、イタリアなどに聞こえし地に近き国にて、むかし其国にてつくりし果子の、此土に伝へし物は、今も候なる。」
と、出ています。「今もあるカステイラも、西洋の地名からきているんですよ」。ざっと、そんなところでしょう。
「鎖国」はたしかにその通りなんですが。西洋のものがまったく入って来なかったわけではないようですね。カステラはその良い例かも知れませんね。
食物に例があれば、着る物にも例がありまして。たとえば、「桟留」。桟留も、もとを正せば、「セント・トオマス島」に由来しているとか。その点、カステラにも似ているでしょうか。
「其風ぞくは さんとめ せいらすしまに 絹うらの小袖に 唐さん留の羽織をたたんで……………………。」
享和二年に出た『魂胆胡蝶枕』にも、そのように書かれています。
ここでの「せいらすしま」は、セーラス縞のことなのです。江戸のはじめ、オランダ人がセイロン島から運んで来た縞柄の絹地だったので、「セーラス縞」と呼ばれたものであります。
「………二十四五いやみのなきいろ男せいらつじまの下着にこんちりめんのしゆばんにて……………………。」
1789年の古書『まわし枕』の一節。
「せいらつじま」と訛ってはいますが、セーラス縞のこと。訛りなのかどうなのか、
「しゆばん」は、原文通り。
今、セーラス縞がありますか、どうか。絹の縞柄でチョッキを仕立てて頂きたいものです。