フクロウは、鳥のひとつですよね。
フクロウがお好きだったお方に、「Sさん」がいます。むかし私が出会った頃のSさんは、銀座の出版社の社長でありました。それからざっと五十年のおつきあいだったことになります。
Sさんのほとんど唯一の趣味が、フクロウ蒐集だったのです。フクロウの彫刻や置物、装飾品の類いだったのですが。
とにかくマンションのひと部屋が、フクロウの置物などでいっぱいだったのですから、ふつうの蒐集の範囲を超えていました。私はある時、Sさんに訊いたことがあります。「どうしてフクロウなんですか?」。それに対するSさんの答え。
「フクロウはねえ、知恵の神様なんだよ。フクロウの近くにいると、知恵が湧いてきそうな気がするんでね。」
たしかにSさんはいつでも新しい名案をお持ちのお方でありました。
置物ではなくて、本物のフクロウを育てる話。それも「イートン校」でフクロウを育てるのですから、前代未聞でしょうね。
ジョナサン・フランクリン著『イートン校の2羽のフクロウ』に、詳しく出ています。時代背景は、1950年代のことです。
もちろん、ジョナサン・フランクリンがフクロウを育てた当の本人なのですが。フクロウの名前は、「ディー」と「ダム」。
「13歳で燕尾服に白の蝶ネクタイといういで立ちでイートン校に到着した僕は、正直言って、震え上がるくらい緊張していました。」
ジョナサン・フランクリンは、そのように書きはじめています。「厳しい教育が待っている」との噂があったから。
この時、すでにジョナサンの両肩には、「ディー」と「ダム」とが乗っていたのですが。
「イートン校はエキセントリックであることを許し、少年たちが情熱を追求することを奨励する」
そんな伝統があるんだとか。ジョナサンが肩に「ディー」と「ダム」を乗せて校庭を歩いていても、誰ひとり咎める者はいなかったという。
実はイートン校にはいくつかの伝統があるらしく。「ウォールゲーム」や「フィールドゲーム」。これらのスポーツは、イートン校だけで行われる球技なんだそうです。
また、イートン校の有名な制服は、校内では「スクール・ドレス」と呼ばれるんだとか。あの燕尾服は、ジョージ三世に敬意を示すためにはじまっているんだとか。
「イートン校の二羽のフクロウ」はだんだんと有名になって。雑誌やTVでも取材されるようになったそうです。
ある時、ジョナサンにある母親から連絡があって。
「うちの娘のパーティーに、娘の隣でフクロウの話をして頂きたい。」
そんな依頼もあったらしい。
ジョナサンがいよいよイートン校を去る時。当時の校長、ロバート・バーリーは特にジョナサンを昼食に招いて。
「イートン校の良き印象を伝えてくれたことに感謝する」。
そんなふうに言ってくれたそうです。
フクロウが出てくる小説に、『幸福、その他の物語』があります。
キャサリン・マンスフィールドが、1920年に発表した短篇。
「彼女ののどもとには半月に小さな五匹のフクロウがすわった銀のブローチがあり、首のまわりに黒いビーズ玉で作られた時計の鎖をつけていた。」
これは、フェアフィールドという女性の様子について。
では、フェアフィールドはどんな服装をしているのか。
「彼女か大きな紫色のパンジーの模様のついた灰色のフラールの服を着て、白いリンネルのエプロンをかけ…………………………。」
ここでは「フラール」と訳されています。
フラール f o ul ard は、どちらかといえばフランス語の響きがあります。英語なら、
「フラード」でしょうか。「薄綾絹」のこと。
英語の「フラード」は、1864年の頃から用いられているようです。一方、フランス語の「フラール」は、十八世紀にすでに用いられています。フランスの「フラール」がイギリスに伝えられて、「フラード」になったものでしょうか。
1910年代のイギリスで、女性のドレスに「フラード」が使われることがあったのでしょう。
フラードはとにかく「薄綾絹」なのですから、ネクタイ地にも使われることがあります。主に、夏用のネクタイ地として。
どなたか極上のフラードで、ネクタイを仕上げて頂けませんでしょうか。