鵞鳥とガーンジー

鵞鳥は、グースのことですよね。goose と書いて「グース」と訓みます。
グースは昔の洋服屋とも関係があります。昔のアイロンはグース型だったので。というよりも洋服屋のスラングで「グース」といえば、職人用のアイロンの意味だったのですね。取手のところが鵞鳥の頸に似ていたから。

「入れ、仕立屋、ここは火熨斗をあぶるにはもってこいの火かげんじゃ。」

1606年頃に、シェイクスピアが発表した戯曲『マクベス』に、そのような科白が出てきます。これは城に仕立屋がやって来たので、門番が扉を開けようとしている場面でのこと。
ここでの「火熨斗」には、「グース」の言葉が用いられています。
これまた、古い話ではありますが、「グース・フェア」。昔の英国各地にはグース・フェアがあったという。鵞鳥市。本物の鵞鳥を売り買いするので、グース・フェア。
ことにノッテンガムのグース・フェアは有名だったらしい。今もグース・フェアはあります。でも、本物の鵞鳥ではなくて、鵞鳥のテリーヌなんかが並んでいるのですが。
グースが出てくるミステリに、『青い紅玉』があります。コナン・ドイルが、1892年に発表した物語。たぶんお読みになったことがおありでしょう。
時は12月26日の朝と設定されています。

「クリスマスの朝、この帽子はよくふとったガチョウといっしょにまいこんできた。ガチョウのほうは、きっといまごろ、ピータースンの家で暖炉の火にあぶられていることだろう。」

もちろん、ホームズのワトソンへの言葉として。イギリスでは昔から、クリスマスにはグースを食べる習慣になっています。
グース・ダウンは、読んで字のごとく、鵞鳥の羽根。ダウンの材料として、グース・ダウンは最良だとされています。ことに寒い地方で育ったグースの羽根は保温性が高いので。
鵞鳥が出てくる小説に、『海に働く人びと』があります。1865年に、フランスの作家、ヴィクトル・ユゴーが発表した物語。

「ガチョウのような足は、禿鷹の爪だった。」

ユゴーの『海に働く人びと』は、イギリス領のガーンジー島が物語の背景になっています。
1851年に、ユゴーはベルギーに亡命。ベルギーからさらに、ガーンジー島に渡っているので。

ユゴーの『海に働く人びと』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。

「ここにしか生息しない百合。ガーンジー百合と呼ばれている。」

ガーンジー百合は、ガーンジー島だけに咲く貴重な百合で。その昔、日本の船が難破、漂流した時の置土産だと伝えられているものです。十七世紀の話なのですが。
今、「ガーンジー」guernsey というと、「厚手のスェーター」の意味にもなります。
これはもともとガーンジー島での、フィッシャーマンズ・ジャケットだったものです。
未脱脂ウールで編んだジャケット。未脱脂ウールなので、水を弾く効果があります。
どなたか未脱脂羊毛で、ガーンジーを編んで頂けませんでしょうか。