コートとコープ

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コートは、上着のことですよね。
ただし、「外套」の意味でもあります。
では、コート c o at は「外套」なのか、「上着」なのか。
コートを辞書で調べておりますと。「コート・オブ・アームズ」c o at of arms というのが出ていました。昔の「陣羽織」のことなんだとか。
往時の騎士が鎧の上に羽織った、紋章入りの陣羽織。これを、「コート・オブ・アームズ」の名前で呼んだんだそうですね。
つまりもともとは、「いちばん上に羽織るもの」の意味があったのでしょうか。
「上着の裏返し」。むかしはそんな迷信があったらしい。「ターニング・ヒズ・コート・フォア・ラック」。
幸運を願って、一度上着を解いて、裏返しにして、もう一回縫うこと」。こうする運勢が良くなると、信じられていたんだそうですね。まあ、それくらい上着と精神とは密接だったということなんでしょう。

「……………荒々しくコートのポケットへ突込し手ざはり何とやら書生あがりの……………。」

明治二十四年に、坪内逍遥が書いた『春廼屋漫筆』に、そのような一節が出てきます。これはおそらく「外套」を指しているものと思われます。

「このコート、きのう買ったばかり。歩きたいのよ」。

昭和二十六に、永井龍男が発表した『風ふたたび』に、そんな文章が出てきます。これは「香菜江」という女性の科白として。物語の前後を読みますと、「外套」のひとつなのでしょう。

「…………柳之助のコートの襟が歪みなりに折れてゐるのを、お島が見着けて……………。」

明治二十九年に、尾崎紅葉が発表した『多情多恨』にこのような文章があります。これは「上着」の襟なんですね。
お島に言われた柳之助が襟を直すと、もっとひどく歪む場面なんですが。
「コート」。時代によって、人によって、いろんなふうに使われてきたものと思われます。結局、コートは「上着」でもあり、「外套」でもあるということなんでしょうか。
コートが出てくる短篇に、『一軒家』があります。アイルランドの作家、め・ラヴィンが書いた物語。

「そのときはもうバートレーを抱き上げて、自分のコートでしっかりくるんでいましたっけ。」

これは「モナ」という母の仕草として。これも、おそらくは「外套」だったのでしょう。
メアリ・ラヴィンの短篇に、『大いなる波』もありまして。

「さて司教はすわったまま、白い祭衣、の裾を掻き合わせて、大外衣と上祭服が裏返しになっていることを確かめた。」

これは船に乗っている司教の服装についての描写として。
「大外衣」には、「コープ」のルビが降ってあります。
「コープ」c o p e はもともと「肩衣」の意味があったらしい。「ケープ」c ap e とも無関係ではありません。
現在ではカトリック教の司教が着る正式のマントに似た服装。
どなたか一般人にも着られるコープを仕立てて頂けませんでしょうか。

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