デカンターは、移し替え容器のことですよね。
あるいはまた、移し替えそのものも、「デカンター」というんだとか。「デカンタージュ」。
d ec a nt er と書いて、「デカンター」。でも、「デカンタ」とも。デカンタなのか、デカンターなのか。
さらにには「デキャンタ」なのか、「デキャンター」なのか。私のような無知蒙昧には、さっぱり分かりませんが。
とりあえずここでは「デカンター」とさせて下さい。収拾がつきませんので。
どうして、デカンターということがあるのか。ひとつには、澱を除いておくために。もうひとつには、エティケットを見せびらかせないために。
さらには、高価貴重なデカンターを誇りたいために。まあ、ざっと、そんなところでしょうか。
もう少し細かことを申しますと。デカンターすることは、空気により多く触れさせるわけで、これでさらに味を佳くするために。
仮に、年代物のロマネ・コンティが一本あったとして。客のグラスに注ぐ時、デカンターしないことが多い。
まあ、はっきり言って、見栄ですね。「ロマネ・コンティ様でございますよ」と。
しかし、富豪ともなりますと、ロマネ・コンティであろうなかろうと、デカンター。その心は、「吾輩が月並ワインを出すはずがないでしょう」。
まあ、こんなふうに考えてみますと、富豪になるのもなかなかたいへんなことのようですね。とても私は富豪の心境には、近づけそうもありません。
デカンターが出てくるミステリに、『私立探偵』があります。1989年に、ローレン・D・エルスマンが発表した物語。
「そこには脚のながいワイングラスが二個、真紅の液体が半分入ったクリスタルグラスのデカンターが一個のっている。」
これはとある教会の司教室。物語の主人公で、私立探偵の、ラルフ・ポティートが、司教からある頼み事をされる場面。デカンターの中身は、上物のシェリーなんですが。
まあ、こんな場合には、極上のシェリーくらいは出てくるでしょう。
では、私立探偵の、ラルフはどんな帽子をかぶっているのか。
「リボンにオレンジ色の羽毛の飾りがついたチロリアンハットをかぶり………………」。
どうも、ラルフはティロリアン・ハットがお好きのようですね。
文中、「リボン」とありますが、正しくは「ハット・バンド」。
ハット・バンドに、羽根を挿しているのでしょう。
ティロリアン・ハットは、読んで字のごとく、ティロル地方の、民族衣裳のひとつ。本来は、革の半ズボンに、独特のティロリアン・ジャケット。そして、ティロリアン・ハットを。
もともと登山帽としてはじまったところから、小さな登山用具を帽子にあしらう習慣があります。
デカンターからのワインを頂く時には、敬意を表して、ティロリアン・ハットを脱ぐといたしましょうか。