エックスは、Xのことですよね。アルファベットの二十四番目の文字です。
そんなわけで、Xは「二十四番目」の意味にもなるんだとか。でも、Xは二十六あるアルファベットの中で、いちばん項目の少ない文字でもあります。
たとえば、「キサナドゥ」X an ad u 。キサナドゥは、「桃源郷」の意味なんだそうですね。キサナドゥは、『クーブラ・カーン』に出てくる理想の国のこと。
『クーブラ・カーン』は、英國の詩人、サミュエル・テイラー・コールリッジが、1797年に発表した詩のことです。クーブラ・カーンは、クビライ・カーンのことで。つまりは、ジンギス・カーンの孫を指す言葉。キサナドゥには、クビライ・カーンの夏の別荘があったという。
まあ、そんなわけで。Xにはじまる単語は、それほど多くはありません。これは服飾用語についても同じことです。服飾辞典でも、「X」からはじまる言葉については省略されているものもあります。
でも、皆無というわけでもありません。たとえば、「エックス・クリース」。X cr e as e と書いて、「エックス・クリース」と訓みます。
Xクリースは、皺のこと。仮に、シングル前の三つボタン型の上着があったとして。真ん中のボタンを留める。この時、留めたボタンを中心に「X」字状の皺が出ることがあります。
この「X」字状の皺は、その上着がその身体には合っていないことの信号なのです。ごく簡単に申しますと、タイトすぎる。なんらかの方法で、修正しなくてはなりません。
Xが出てくるミステリに、『リュパンの冒険』があります。1908年に、モオリス・ルブランが発表した物語。
「ボーレグリーズ公爵夫人はXにしようかしら、X Xか………………」
これは、ソーニア・クリチノーフの科白。結婚式の案内状を書いている場面。
案内状に封をするとき、Xをひとつなのか、二つなのか、三つなのかで、迷っているのですね。
「クロア」X がひとつなら、「結婚式にお出で下さい」。Xが二つなら、「結婚式と披露宴にお出で下さい」。Xが三つなら、「結婚式と披露宴にお出でになって、結婚宣誓書にご署名下さい」の意味になるんだそうですね。
『リュパンの冒険』には、こんな描写も。
「ちかごろ、この「豪華」と「高雅」とはしばしば共存できないものだが、ここでは、両者がじつによくマッチしている。」
これは、シャルムラルース公爵邸の内装を眺めての、リュパンの感想。
シャルムラルース公爵邸は、巴里の、ユニベルシテ街B三十四番地にあって。「リュックス」でもあり「エレガン」でもある、というのでしょう。
たしかに「豪華」すぎると、「高雅」ではなくなることがあるものです。そして「高雅」で、なおかつ「豪華」でもあるのは、まこと難しいものであります。
もちろんこれはインテリアに限ったことではありませんが。
私の場合は、質素で、簡素で、自然体に徹することにいたしましょうか。