パスポートとパール・グレイ

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パスポートは、旅券のことですよね。昔は、旅行券とも言ったようですが。
p assp ort ですから、「港通過券」とも訳せるものでしょう。つまり、それだけ以前は船旅が多かったということなんでしょう。
パスポートは身分証明書でもあります。これがないことには、外国には行かれません。
昔、こんな冗談を聞いたことがあります。1970年に「沖縄返還」があって、しばらくの頃。
撮影で沖縄に行く写真家。友人から「旅券は持ったよね」と言われて、つい、ひっかかってしまったという。
でも、一歩、日本から出るには、旅券は必ず必要です。
「旅券は俳句」。そんな羨ましいお方が、江國 滋。1990年に『伯林感傷旅行』をお書きになっています。この『伯林感傷旅行』の副題が、「旅券は俳句」なのです。

ベルリンの崩れし壁に初日さす

そんな佳句を詠んでおります。まあ、ちょっとした「旅券は俳句」の気分でありましょう。

「午後はパスポートの調査と現金を託する者の為の事務があった。」

石川達三が、昭和十年に書いた小説『蒼氓』の、一節です。『蒼氓』はちょっと訓みにくいのですが、「そうぼう」。
石川達三の『蒼氓』は、第一回の「芥川龍之介賞」受賞作です。この時の候補に上がったのは、五作。外村 繁の『草筏』、高見 順の『故旧忘れ得べき』、衣巻省三の『けしかけられた男』、太宰 治の『逆行』。
この中から石川達三の『蒼氓』が選ばれたわけです。

「当選作の「蒼氓」は素材の面白さの上に作者の構成的な手腕のうまさも認めなければなるまい。」

選考委員のひとり、佐藤春夫は、そのように述べています。
石川達三の『蒼氓』は、実体験をもとにした創作。石川達三は、昭和五年の三月、ブラジルに移民。石川達三、二十五歳の時でありました。何事も経験してみるものですね。

パスポートが出てくる小説に、『皇女セルマの遺言』があります。1987年に、ケニーゼ・ムラトが発表した長篇。

「自発的にではないにしろ、肌の白いことが人種の壁を越すパスポートになったのだから。」

これは「アミール」という人物の、社会での受け入れられ方について。
また、『皇女セルマの遺言』には、こんな描写も出てきます。

「パールグレイのモーニングコートに身を包んだ、ハンサムな父ハイーリ・ラウフ・ベイの姿が鮮明に心に浮かんだ。」

これは主人公「セルマ」の想いとして。
「パール・グレイ」真珠にも似た、淡いグレイ。モーニング・コオトであろうとなかろうと、男の服の色として、もっとも優雅な色彩でしょう。
パール・グレイを含め、グレイ・モーニングの場合、「アスコット・モーニング」の別名もあります。十九世紀末には、アスコット競馬場にふさわしい衣裳だったので。
どなたかパール・グレイのモーニング・コオトを仕立てて頂けませんでしょうか。

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