モヘアとモアレ

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モヘアは、生地の名前ですよね。mohair と書いて、「モヘア」と訓みます。英語としては、1570年頃から用いられているとのこと。
モヘアは、アンゴラ山羊の毛を使った織物です。細く、長い毛質を持っています。
モヘアが出てくる小説に、『女面』があるのは、ご存じでしょう。昭和三十三年に、円地文子が発表した短篇。ここでの「女面」は、能面を指しているのですが。

「泰子はうす紫のモヘヤのオーバーを着て………」

これは第二章の『十寸髪』という章題のところに出てくる文章。
「十寸髪」と書いて、「ますがみ」と訓むんだとか。やはり能面でも言葉で、若い狂女の面の意味なんだそうですね。
同じ『女面』の第二章に、こんな描写も出てきます。

「………普段より十も若返ったかと思うほど美しく見えたし、毛の長いモヘヤのツングース族じみた徳利衿のスウェーターから不似合いに華奢な首を………」

これは「三重子」の着こなしとして。
ここから理解できるのは、モヘアがスェーターにも外套にも向く素材であることでしょう。そしてまた、昭和三十年代の円地文子がモヘアに対して特別の思い入れがあったことでしょうか。

モヘアが出てくるミステリに、『ミッション・ソング』があります。英国の作家、ジョン・ル・カレが、2006年に発表した物語。

「………マッシュルーム色のモヘアの三つぞろい、それに会ったイタリア製のワニ革の靴………」

これは「アジ」と呼ばれる男の着こなしについて。モヘアは繊維のひとつですから、生地の織方によってはもちろんスーツ地にもなるのでしょう。
また、『ミッション・ソング』には、こんな描写も出てきます。

「フィリップはグレーのスーツに白い綿のシャツ、波紋のある赤いシルクの高級なネクタイという恰好で………」

この「波紋のある」は、「モアレ」moiré のことかと思われます。
モアレは、「波目模様」、または「木目模様」と呼ばれることもあります。
「モアレ効果」という時のモアレです。半透明の生地を二枚重ねると、波紋が生まれます。つまり、もともとは生地の名前からはじまっているのですね。
どなたかモアレのディナー・ジャケットを仕立てて頂けませんでしょうか。

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