スーツケースは、洋服鞄のことですよね。たとえばスーツを上手に畳みますと、ほぼ横長の長方形になります。この長方形に畳んだスーツをなるべく皺にならないように入れて持ち運ぶのが、スーツケース。
大きいスーツケースもあれば、わりあい小型のスーツケースもあります。そして名前とは裏腹に、スーツ以外の旅行用品も入れておけるでしょう。その意味では格好の旅行鞄でもあります。
「スーツケース」suit case は1897年頃からの英語なんだそうですね。
一方、「トランク」trunk は1440年頃すでに用いられていたようですから、それに較べれば、スーツケースは新人ということになるのでしょうか。
スーツケースが出てくるミステリに、『ロング・グッドバイ』があります。レイモンド・チャンドラーが、1953年に発表した長篇。
「スーツケースは目をむくようなしろものだった。さらした豚革で作られていて、新品のときには淡いクリーム色だったはずだ。英国製で、金具は純金だった。もし万が一このへんで店に出ていたとしたら、二百どころか八百ドルは下るまい。」(村上春樹訳)
1950年頃の話ですからねえ。
これはフィリップ・マーロウが預かる、テリー・レノックスのスーツケースの説明として。純金の留金というのですから、参ってしまいます。
スーツケースが出てくる短篇に、『心の灯』があります。アメリカの作家、オー・ヘンリーが発表した物語。
「衣類をスーツケースに入れて持ってきて、不意にさっとドアの中へ入ってくるから………」
これは「ナンシイ」の科白として。
ほぼ同じ頃、オー・ヘンリーが書いた短篇に、『記憶喪失症』があります。この中に。
「………長年練習をつんだ器用さで、きちんとさしてある私のスカーフ・ピンを、ちょいと横っちよにひんまげる。」
これは「ベルフォード」という男の仕種として。当時は、「スカーフ・ピン」があったのでしょう。もちろんスカーフふうのクラヴァットに使ったものなのでしょう。
つまり、スカーフ・ピンから、今のネクタイ・ピンが生まれているのではないでしょうか。
どなたか古典的なスカーフ・ピンを作って頂けませんでしょうか。