タスカーニは、トスカーナのことですよね。
イタリアの地名。
Toscana と書いて、「トスカーナ」と訓みます。地名に限らず固有名詞の訓み方は難しくて。タスカンとか、タスカーニなどの訓み方もあったようですよね。
戦前の日本では、「タスカン帽」があったらしい。イタリア、トスカーナ地方の麦藁で編んだ夏帽子のことを。
「トスカーナの町は、それぞれに個性があり、それぞれに独特の色と形があって、実に美しい。ルッカも、ピーザも、サン・ジミニャーノも。」
加藤周一は、1991年に書いた随筆『トスカーナの春』に、そのように出てきます。加藤周一はさらに続けて、こうも書いているのです。
「たとえばアレッツォには、正面に三層の列柱をならべる一ニ世紀の教会がある。」
このアレッツォに単身移住した画家に、堀 文子がいます。1987年に。堀 文子が六十九歳の時のことです。
堀 文子はここにアトリエと住まいとを構え、ひとりで暮し、ひとりで、多くの絵を描いています。
イタリアの生活を思い立ち、私がアレッツォでの暮しを始めたのは
緑の麦畑の畦道に猫柳がきな粉色の芽を吹き出した春のはじめであった。
銀色の玉を並べたようなオリーブの丘。
堀 文子は『トスカーナのスケッチ帳』の中に、そのように書いています。
タスカーニが出てくる小説に、『黄金の盃』があります。1904年に、ヘンリー・ジェイムズが書いた傑作。
「もの心がついて最初におぼえているのは、タスカニー人の乳母であった。」
日本語訳者、工藤好美は、「タスカニー人」と訳しています。
また、『黄金の盃』にはこんな描写も出てきます。
「………頭にぴったり合った帽子から靴のタン皮の色合いにいたるまで、自由で生きいきした、しかし趣味のよい服装のうちに………」
これは「アシンガム夫人」について。
「タン」tongue
は、「舌革」のことです。紐結式の靴にはたいていタンがあります。スコットランドのギリー・シューズだけはタンがないのが、特徴になっていますが。
とにかく靴にも「舌」があるというお話。
どなたかタンまで美しい靴を作って頂けませんでしょうか。