ラムは、ラム酒のことですよね。サトウキビを原料としたスピリッツ。rhum と書いて、「ラム」と訓みます。
ケーキを作る時にも香りづけとして加えることがあるでしょう。
ラムは中世の昔から造られていたんだそうです。サトウキビさえあればあれば簡単に造れたから。サトウキビから砂糖を作って。その搾りカスからラムを蒸留したという。
当時のラムは粗い酒で、度数も強くて。肉体労働とも関係があったらしい。肉体労働の後で、粗いラムがふるまわれる。それで熟睡して、次の日にまた、肉体労働。
この粗いラムを改良したのが、フランス人修道士、ジャン・バティスト・ラバだったと伝えられています。1693年のこと。
ジャン・バティスト・ラバは1693年に、マルティニーク島に渡り、ここでブランデー方式によるラムを。これによってラムの品質が格段に向上したという。
近世はまた、船旅の時代でもあって。長期の航海での悩みが、壊血病。これはヴィタミンC不足が原因。でも、当時はヴィタミンCの知識はなくて。ただ、ひたすらラムを飲んだ。ライム・ジュースで割ったラムを。
イギリス海軍をはじめ、各国の海軍でも兵士にはラムを飲ませたのです。壊血病予防のために。それは実際にはラムではなく、ライムに効果があったのですが。
今でもイギリス人のことを俗に、「ライミー」と呼ぶことは、大航海時代に遡るのです。
アーネスト・ヘミングウェイがお好きだったカクテルに、フローズンダイキリがあります。晩年のヘミングウェイはキューバに住んで、しばしば、「ラ・フロディータ」に通った。ここでよく飲んだのが、フローズンダイキリ。いや、「モヒート」であり、「キューバ・リーブレ」だったのです。いずれもラムなしでは作れないカクテル。
キューバはその昔、砂糖輸出国でしたから、ラムを造るのに不自由しなかったのでしょう。
今もキューバには、「ロン・ビヒア」の銘柄があります。「ロン」はラムのこと。「ビヒア」は、「フィンカ・ビヒア」に因んでいるのです。ヘミングウェイがキューバで長く住んだ屋敷の名前に。
ラムが出てくる小説に、『都に夜のある如く』があります。昭和二十九年に、高見 順が発表した物語。
「上から下へ、びつしりと書いてあるのは、ラム、ウィスキー、ジンといつた酒の名前で、レモン、オレンジの添へ物も懇切丁寧に出てゐるし、砂糖の項目まであると玉置は言つた。」
これはター坊という若者が持っているシャープペンシル。バテンダー志望なので、一種のカンニングペーパーにもなっているのですね。
ラムが出てくる小説に、『弟』があります。ドイツの作家、ハンス・エリック・ノサックが、1958年に発表した物語。
「衣裳部屋の傘立てのわきの床の上う、うすい包装紙につつまれたまだ封印されたままのラムさけの瓶があった。」
また、ノサックの『弟』には、こんな一節も出てきます。
「彼は船橋にむかって黒いホンブルク帽をふってみせ、その隣のご婦人、ペルシア子羊の外套を着た小柄のむっ
ちりした女性もハンカチを振っていた。」
これは港で帰船を出迎えている様子として。
おそらくはラムのコオトなのでしょう。この場合のラムは、ram のこと。
どなたかラムの外套を仕立てて頂けませんでしょうか。