クルー・ネック(crew neck)

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万人愛好の襟

クルー・ネックは丸首のことである。Tシャツはもとよりプルオーヴァー・タイプの服装に至るまで、よく使われスタイルである。

クルー・ネックはひとつのデザインである。と同時に、着脱の際に頭を通すための間隙とも言えるものだ。

もし服装の起源を貫頭衣だとするなら、クルー・ネックの元祖は服の歴史とともに古いのかも知れない。

「クルー」 crew は、「船員」とか「仲間」の意味で使われる。これは古代英語の「クルー」 creue と関係があるらしい。もともとは「殖える」の意味であったとか。人が増えて仲間になり、やがては舟の「漕ぎ手」の意味にもなったのであろう。

クルーにはボートの「漕ぎ手」のことでもあって、彼らが着ているシャツのスタイルから、その名前が生まれたものと思われる。

「クルーは船員とか船艦、ボートの乗組員の意。これらの人々の着るセーターに見られる、首元にきっちり合った丸い衿ぐりで、ゴム編みになったものをいう。セーターやプルオーバーに応用される。」

文化出版局編『服飾辞典』には、そのように説明されている。ただし項目としては、「クルー・ネックライン」となっている。もともとは「クルー・ネックライン」で、後にそれが省略されて「クルー・ネック」となったのであろうか。

『OED』 ( オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー ) によれば「クルー・ネック」は、アメリカ起源の言葉なのであるという。そしてクルー・ネックに並べて「クルー・カット」の表現も紹介されている。

クルー・カットはごく短い髪型のことで、1930年代のアメリカでの流行だと考えられる。ということは「クルー・ネック」の表現もまた、1930年代のことであろうか。それはともかくクルー・ネックとクルー・カットとは、かなり接点があるものと思われる。しかし「クルー・ネック」の以前に丸首のデザインがなかったわけではない。

「首を取り巻くような、ラウンド・ネックラインのこと。大学生やボート競技の選手たちのスェーターに見られる襟型。」

マリー・ブルックス・ピッケン著『ファッション辞典』 (1957年刊 ) の解説である。ここでの項目も「クルー・ネックライン」となっている。

この『ファッション辞典』は、同じ著者による『ファッションの言葉』 ( 1939年刊 ) を下敷きにしたものであるという。そして『ファッションの言葉』にすでに、「クルー・ネックライン」が紹介されているのだ。

これらのことから想像するなら、「クルー・ネックライン」は1930年代以降の表現ではないか。それよりも前には「ラウンド・ネックライン」の表現があったものと思われる。つまり1930年代の、アメリカ東部の大学生たちが、丸首のユニフォームでボートを漕ぎはじめた。ここから「クルー・ネックライン」と呼ばれるようになったのではないだろうか。
1935年『エスクワイア』誌8月号に、最新のテニス・ウエアが紹介されている。それは半袖シャツに半ズボンの姿。その半袖シャツは丸首で、「ラウンド・ネック・プルオーヴァー」と説明されている。1935年にはまだ「クルー・ネックライン」は一般的ではなかったのだろうか。

それはともかく、「ラウンド・ネックライン」から「クルー・ネックライン」へと移行したのは、まず間違いないと思われる。

1940年『エスクワイア』誌4月号に、新しいゴルフ・ウエアが出ている。それはストライプのスラックスにクルー・ネックのスェーターで、下に重ねたシャツの襟をクルー・ネックの外に出してのカジュアルな着こなしである。

「有名なウインドーキャッチャーは風を防いでくれるプルオーヴァーで、緻密なコットン編みの、裏起毛になっていて、襟はクルー・ネック。」

1940年『イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ』の広告ページの一節。ここでの「ウインドーキャッチャー」は商品名なのである。そしてイギリスで使われた「クルー・ネック」としては比較的はやい例であろう。

「プレジデントはブルーの、クルー・ネック・スェーターをパジャマ代わりにして、ベッドの上に寝ていた。」

アメリカの作家、アプトン・シンクレア著『プレジデント・エイジェント』( 1944年刊 ) の一文である。スェーターをパジャマ代わりにすることもあるかも知れない。それはそれとして、「クルー・ネック」がごく一般的に使われていることが窺える。

「そもそもはボート競技の選手たちが好んで着たところから、首にフィットした襟のことを、クルー・ネックと呼ぶのだ。 ( 中略 ) クルー・ネックの下にタブ・カラーのシャツを着てタイを結ぶのも粋なものである。」

ハーディ・エイミス著『ファッションのABC』には、そのように出ている。そしてここでの項目は、「クルー・ネック」になっているのだ。

それはともかく、クルー・ネックひとつにも多種多様の着こなしがあるわけだ。

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