ラヴェンダーの薫りには、惹かれてしまいますよね。
「ラヴェンダー」はラテン語にはじまっているんだとか。ラテン語の「ラヴェンドゥーラ」lavendula がもとになっている言葉。「ラヴェンドゥーラ」は、「入浴」。古代ローマ人は風呂にラヴェンダーを使ったんだそうですね。
昔、ロンドンでは時期になると、ラヴェンダー売りがやって来た。口上を述べながらラヴェンダーを、売る。口上と言いますか、歌うんですね。
🎵甘い香りのラヴェンダーはいかが
緑の小枝がペニーで十六本
一度買ったら
忘れられない
着物に残る
移り香床しく
甘い香りのラヴェンダーはいかが
そんな口上だったという。ラヴェンダーの薫りを服に移したんでしょうね。1910年代の英国の話なんですが。
これはサマセット・モオムの『おえら方』に出てきます。モオムが1915年に発表した戯曲。
『おえら方』は、ロンドン、メイフェア地区、グロブナー街で幕を開ける。もちろん、高級住宅地。そこにラヴェンダー売りの声が聞こえてくるという設定なんですね。
『おえら方』には、美男のアメリカ人青年が登場する。その「ト書き」に。
「フレミングは美しいアメリカの青年。明らかにニュー・ヨーク仕立ての洋服を着ている。」
で、このフレミングの洋服をなんとかしなくては、ということに。ぜひ、ロンドンで仕立てなくては、と。さて、どこにテイラーにするか。
「むろんですよ。ロンドンでは洋服屋はあすこだけですな。( フレミングに ) もちろんドイツ人です。だがこの、芸術に国境なしなんだから。」
登場人物のひとり「クレイ」の科白なんですね。たぶん、モオムもそう思っていたのでしょうね。
昔、ロンドンに「シュルツ」というテイラーがあって、最高峰とされたものです。もしかすれば「シュルツ」を指しているのかも知れませんが。