セーブルは毛皮のひとつですよね。セーブルは昔の宮廷服だったそうです。それというのも決まりがあって。伯爵以上の人でなくては、セーブルを着ることが許されなかったから。
これは英国のヘンリー八世が決めたことなんだとか。
セーブル sable はクロテンのことで、昔から稀少な毛皮とされて。それというのも、もともとのクロテンは多く、褐色。でもごく稀に黒に近い種類があって、高い値段で取引された。あるいはまた、身体全体は褐色なんですが、尾の部分だけが、黒い。この場合は尾の部分だけを寄せ集めて。そんなわけで、どうしても、値が張ったのでしょうね。
シェイクスピアの『ハムレット』にも、セーブルが出てきます。
「そんなになるか? それでは喪服は悪魔に返し、同じ黒でも貂の毛皮ぐらい着なければな。」
もちろん、ハムレットの科白。「貂」とあるところ、原文では「セーブル」になっています。少なくともシェイクスピアの時代から、セーブルは珍重されていたのでしょうね。
セーブルと決めつけるわけではありませんが。梅崎春生著の『Sの背中』に。
「毛皮のジャンパーを着込んだ猿沢佐介が…………」。
そんな文章があります。また同じく梅崎春生の『贋の季節』には。
「見るとこの暑いのにスパッツなどを着けている。身なりの良い老人であった。」
『贋の季節』は、昭和二十二年の発表。その頃、スパッツ姿の老紳士がいたのですね。
さあ、スパッツを着けて、出かけましょうか。