大根は、野菜のひとつですよね。植物の根を食べるものです。
大根は歴史の古い野菜で、また応用範囲の広い食材でもあります。「ふろふき大根」なんて言い方もあるでしょう。ふろふきは、輪切りにすること。輪切りにした大根をそのまま煮るので、「ふろふき大根」。
ゆっくりと煮込む。それにコツもあるのでしょうが。よく煮上がったふろふき大根は美味いものです。第一、酒が進みますよね。おでんに大根が欠かせないのもよく分かります。
なますなどは半刺身状態の大根でしょうか。大根だけはいくら食べてもあたることがありません。そこから、「大根役者」なんて失礼な言い方も生まれたでしょうね。私の好きなものに、切干大根があります。もともとは保存食。切って、干してあるので、切干大根。太陽の恵みを受けているので、栄養満点。なによりも、旨い。切干大根さえあれば、満足であります。
ほんとうに刺身で食べる大根に、おろし大根があるのはご存じの通り。生の大根をおろし金ですっただけで食べるのですから。焼いた秋刀魚の隣にはぜひとも欲しいものですね。
イカの塩辛って、あります。あのイカの塩辛に大根おろしを添えて頂く。これも堪えられません。あるいはまた、蕎麦を大根おろしで手繰る。なかなか乙なものであります。
所変われば品変わるとか。餅を大根おろしで食べる地方もあるんだとか。
「土地の習慣として焼たての芋焼餅に大根おろしを添へて、その息の出るやつをフウフウ言つて食ひ、」
島崎藤村が明治四十三年に発表した小説『家』に、そんな一節が出てきます。当時の木曽あたりでは、餅に大根おろしの組合せがあったのでしょう。まあ、大根は餅に限らず、相性の良いものですから。
相性といえば、「ぶり大根」。ぶりを煮るのに大根をお供に。なぜかよく似合うんですね。そもそも大根は煮崩れということがありませんから。
「蟹と大根、いくら考えても似ても似つかぬものだが、事実、よくある大根を千六本に切った味噌汁が、ふしぎなるかな、蟹の味噌汁の味を一脈も二脈も通じるのだからしかたがない。」
作家の山田風太郎は、『風眼抄』の中に、そのように書いています。これは但島での郷土料理について。千六本の味噌汁は珍しくありません。でも蟹を入れるのは贅沢の極みでしょう。
大根が出てくる小説に『陽のあたる坂道』があります。昭和三十一年に、石坂洋次郎が発表した物語。1958年には、「日活」で映画化もされているのですが。石原裕次郎と、芦川いづみの共演で。
「たかちは、さっそくテーブルの上を片づけて、五目飯、焼魚、帆立の煮つけ、大根漬けなどを並べた。」
そうそう、大根の漬物も忘れてはいけません。千枚漬も大根の漬物のひとつですからね。
また、『陽のあたる坂道』には、こんな描写も出てきます。
「カーキ色のダッフルコートを着て首にえんじ色のマフラーを巻きつけている、肩幅のひろい青年こそ、田代信次だったのである。」
この「田代信次」をスクリーンで演じたのが、石原裕次郎だったのですが。
ここに出てくる「カーキ色のダッフルコート」は、おそらく放出品の一着だったものと思われます。第二次大戦中、英国などで軍用のダッフル・コートが作られて。終戦後、大量の余剰物資に。それが市場に出たので、流行になったものです。これは日本だけのことではなく、世界的な傾向でもあったのです。ここからダッフル・コートは若者用の印象が生まれたりもしたのですが。
どなたか1940年代のダッフル・コートを再現して頂けませんでしょうか。