『蛍の光』は、説明の必要がないくらいに、有名ですよね。
なにか店で遅くまで残っているような時。『蛍の光』が流れますと、客はごく自然におみこしをあげることになっています。不思議な曲でもあります。
『蛍の光』が日本の唱歌となったのは、明治十四年のことなんだとか。文部省編「小学唱歌歌集」に、収められています。
「蛍の光、窓の雪……」。これは、「蛍雪の学び」。つまり熱心な勉強を讃える歌詞。そこから、卒業式に使われるようになったのでしょうね。そしてさらには卒業式から、別れの歌の印象が生まれたのでしょう。
『蛍の光』の原曲は、スコットランド民謡。『オールド・ラング・サイン』 Auld Lang Syne 。「時は過ぎ行く」といった意味なんでしょうか。以前には、「久しき昔」と訳されたこともあったようでが。
『蛍の光』はどうしてここまで日本に定着したのか。ひとつには、『蛍の光』が「ヨナ抜き」で作られているからかも。スコットランドの情感と日本の情感、どこかに共通点があるのでしょうね。
スコットランドの『オールド・ラング・サイン』は、作詞、作曲とも不明。古い時代から、口から耳へ、耳から口へと、歌い継がれてきたのでしょう。
ただ現在の作詞を完成させたのは、ロバート・バーンズ。もちろんスコットランドを代表する詩人。ロバート・バーンズが民間に伝わる歌詞をまとめたという。
『蛍の光』が出てくるミステリに、『ウィチャリー家の女』が。ロス・マクドナルドが、1961年に発表した物語。
「となりのバー兼グリルの店では、客たちが<蛍の光>を合唱していた。」
また、こんな描写もあります。
「タートルネックのカシミアのセーターを着た若い男だった。目の色も、セーターの色も美しい青である。」
さて。なにかカシミアのスェーターを着て。『蛍の光』を聴きに行くとしましょうか。