ピアノの演奏を聴くのは、心安らぐものですよね。
ピアノは両手で、弾く。でもそうとも限ってはいないみたいで。
たとえば、『ピアノ協奏曲ト長調』とか。もちろん、モーリス・ラヴェルの作曲。『ピアノ協奏曲ト長調』は、左手だけで弾くように作られているんだそうです。
これはウィトゲンシュタインが、「左手だけのピアノ曲」を依頼した結局、生まれたもの。ウィトゲンシュタインの注文を受けたラヴェルは、ずいぶん勉強したものだそうですね。サン=サーンスの『左手じよる6つの練習曲』などを学びに学んで、完成。1929年に作曲をはじめ、ざっと六か月かけて1930年に、誕生。
『ピアノ協奏曲ト長調』の初演は、1931年にウィーンで。もちろん、パウル・ウィトゲンシュタイン自身の演奏によって。
パウル・ウィトゲンシュタインは、音楽的な家庭環境に生まれ、育った人物。パウルがピアニストになったのも当然でしょう。
やがて第一次世界大戦がはじまって、パウル・ウィトゲンシュタインも、戦場に。そして、ウィトゲンシュタインは右腕を失う。失望と落胆。でも、パウルは諦めなかった。「そうだ、左手があるじゃないか!」と。それで、モーリス・ラヴェルに左手だけで弾けるピアノ曲をお願いしたわけですね。
パウル・ウィトゲンシュタインが右腕を失くしたのが、1917年のこと。1917年。第一次世界大戦が物語の中心となるのが、『長い日曜日』。セバスチアン・ジャプリゾが、1995年に発表したミステリ。この中に。
「アンゴラのグレーのマフラーを首へ回し、やはりグレーのフェルト帽をかぶり………」
これは弁護士の、ピエール・マリーの着こなし。「アンゴラ」には大きく分けて、ふたつあります。アンゴラ兎の繊維と、アンゴラ羊の繊維と。この弁護士のマフラー、「アンゴラ」は、どちらなんでしょうか。