時計台は、建物の上に掛かっている時計ですよね。高い所にあるので、見上げる時計でもあります。
駅舎にあり、学校にあり、ビルディングにあります。昔と今と較べて、時計台を見上げること、少なくなっています。今は、「時計台を見上げない時代」なのかも知れませんが。
「時計台」からはじまる歌に、『恋の町 札幌』があります。
🎵 時計台の 下で逢って……………。
浜口庫之助の作詞作曲。石原裕次郎が歌っています。時計台からは、恋が生まれることもあるのでしょうね。
加賀乙彦の小説にも、『時計台』があります。『時計台』は、東京大学、医学部が背景になっている小説。ここでの「時計台」は、東京大学、医学部を指しているのでしょう。
『時計台にむかって』と題する詩を書いたのは、田村隆一。
「 「あの時計台の音をきかないと年が越せなくてね」 …………」
『時計台にむかって』には、ある老詩人のささやきが引用されています。『時計台にむかって』をすべて読むと。この「時計台」は、どうやら銀座「和光」の時計台のように想えてくるのですが。
田村隆一は、酒を愛した詩人。朝めざめると、一杯のヴァン・ルージュを飲んだそうですね。酒仙としては当然、ウイスキーのために、スコットランドにも旅してみます。スコットランド人の案内人にインヴァーネスへ。そこで、田村隆一は。
「ぼくはインヴァーネスを持っているんだよ」
すると案内人は驚いて、田村隆一を尊敬したという。日本に、インヴァーネスはどの敷地を持っていると考えたのでしょう。
田村隆一が晩年に長く住んだのは、鎌倉。田村隆一は時に、パジャマの上にトレンチ・コートを羽織って、鎌倉を散歩することがあったらしい。と、田村隆一は呼びとめられて。
「あのう、もしかして詩人の田村隆一さんでは………」。
それで自宅に招かれて、ビールをご馳走に。でも、下がパジャマなので、トレンチ・コートを脱ぐことができなかったそうです。
トレンチ・コートにはたくさんボタンが付いています。あのボタンはぜひ留めましょう。下に何を着ているのか、分からないように。
年季のはいったトレンチ・コートの下から、皺ひとつない濃紺のスリーピース・スーツが出てきたなら…………。
トレンチ・コートは、その対比の美を愉しむものでもありますますから。