ヴァンプとVネック

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ヴァンプという言葉があるんだそうですね。vamp 。辞書を引きますと、「妖婦」と説明されています。妖婦。お目にかからせて頂きたいような、頂きたくないような。
妖婦はまだしも、「毒婦」なんて訳語もあるようですが。毒婦となりますと。もうお側に寄せて頂いただけで、テトロドトキシンにあたってしまいそうで。
ヴァンプで、わりあい身近かな存在に、「ナオミ」がいます。谷崎潤一郎の名作、『痴人に愛』に登場する、ナオミ。谷崎潤一郎自身は、『痴人の愛』は「私小説である」と、明言しているのですが。
ナオミにはモデルがあって、小林せい子だったと考えられています。小林せい子は当時、谷崎潤一郎の奥さんだった千代の妹。でも、谷崎潤一郎が「私小説」とおっしゃるのも「小説」の一部なのかも知れませんが。
「ヴァンプ」にはもうひとつの意味があって、靴の部分。せっかく粋な話になりそうなとこで、突然、現実の話になって、ごめんなさい。
靴には爪先の甲がありますね。アッパーの甲から続く、つなぎ部分のことを、「ヴァンプ」。綴りも発音もまったく、同じ。まあせめて靴には「妖婦」が棲んでいると思うことにしようではありませんか。
靴の「妖婦」は仕様のないもので、履けば皺になる。でも履いた後、木型を入れて皺を伸ばすのが、おしゃれの第一歩であります。まさに基本の基本。
ヴァンプとの連想から、『夜の靴』を想い浮かべるむきもあるでしょう。『夜の靴』は、横光利一の、「日記小説」になっています。横光利一もまた洋行経験の豊富だったお方で。服装描写も細かく書いています。
たとえば、横光利一の『寝園』の中に。

「ゴルフからの帰りのように見える、Vネックのプルオーバーの紳士は……………」。

『寝園』は、昭和七年に完結した小説。「Vネック」が出てくる小説としては、わりあいはやい例かと思われます。
Vネックは、1920年代のはじめに誕生したとの説があります。
その昔、フェア島の人びとが、英国王室に地元の手編みスェーターを贈ろうとして。「そうだ、紳士のお方ならネクタイを結ぶでしょう」と、考えて。ネクタイを結ぶための胸開きを作った。それがフェア島での最初の「Vネック」だったそうです。
1920年代までのフェア・アイル・スェーターは、圧倒的にハイ・ネック型で編まれたものです。

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