アブサンはスピリッツですよね。アルコール度数、68度くらいでしょうか。
アブサン abs inth e と書いて、「アプサント」と訓むんだそうです。が、ここでは習慣に従って、「アブサン」で揃えることにいたします。
ニガヨモギのエキスを抽出した薬酒だったので、アブサン。もっともニガヨモギにはある副作用があるとされて、一時期禁止されていた時代があったそうです。
アブサンがもっとも盛んだったのは、十九世紀末の巴里でしょう。カフェといわずレストランといわず、アブサンの花盛り。誰もが、ごくふつうにアブサンの杯を傾けてという。
ことにベルエポックの藝術家たちは。ゴッホやロオトレックは、その代表選手でありました。
十九世紀末、巴里での飲み方は、角砂糖を添えて、さらに水で薄めて。もともとの原酒は緑色。それを水で割ると、乳白色に。まず角砂糖にアブサンを浸しておいて、そこに冷水を注いで、白濁したところで、口に含んだそうです。
「コップのなかに角砂糖をスプーンの上に乗せておいて、その上からアブサンをタラタラッとたらして……………。」
『酒について』の中で、開高 健はそんなふうに語っています。
「酒について』は、吉行淳之介と、開高 健との対談集。面白くて、
ためになる読物です。
「アプサント・ドリップ・グラス」という専用の器があって。二重になったグラス。このグラスの上に、「アプサント・スプーン」を。アプサント・スプーンは、中央に穴が開いていて、角砂糖を通してアブサンが下に流れる仕掛けになったいるのですね。そうしておいてから、冷水を足して飲むわけであります。
「サントリー」には一時期「ヘルメス」という銘柄があって。ここにリキュールとしての、アブサンが含まれていました。「サントリー」のご出身でもある開高 健がアブサンに詳しいのも、当然かも知れませんが。
アブサンが出てくるミステリに、『世界名探偵倶楽部』があります。
2007年に、パブロ・デ・サンティスが発表した物語。
「彼はアブサンを注文し、ぼくも同じものを頼もうとしたが………………」。
「彼」とは、パリ在住の探偵、ヴィクトル・アルザキーという人物。ここでもアブサンの飲み方が事細かく説明されるのですが。それはともかく、『世界名探偵倶楽部』には、靴の磨き方も出てきます。
なぜなら、語り手の「ぼく」は、シグムンド・サルバトリオで、靴屋の息子と設定されているので。
「ぼくは靴磨きの箱のなかから、すでに真っ黒になったぼろきれと貂の毛のブラシを取り出した。」
そして、シグムンド・サルバトリオは、「貂の毛のブラシ」で靴を磨いて、ぴかぴかに仕上げるのですね。
ここでの「貂」は、アーミンのことでしょうか。昔からアーミンのローブは国王用とされてきたものですが。
どなたか靴磨き用に、アーミンのブラシを作って下さいませんか。