フェルトとフラシテン

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フェルトは帽子の材料ですよね。
f elt と書いて、「フェルト」と訓みます。
フェルトは第三の材料とも言えるでしょう。
第一に、編物、ニットがあります。一本の糸で編むので、「編物」。
第二に、織物。ファブリック。縦横、二本の糸で織るので、「織物」。
でも、フェルトは編物でも織物でもありません。
まぜこぜの圧縮地とでも言えば良いでしょうか。
たとえば動物の「毛」を整理裁断して、よく混ぜる。混ぜた後で、強く圧縮。それぞれの繊維の走り、方向性が不規則。ですから絶対に手で裂くことはできません。とても強い素材なのです。
また、ソフト・ハットを見れば分かるように、成型自在。どんな形にも仕上げられます。
さらには、用途が広いのです。スリッパからフェルト・ペンまで。

「柔いフエルト氈の靴を穿いていたが、座敷に入つて來た。」

ツルゲーネフの『うき草』( 二葉亭四迷訳 ) に、そのように出てきます。
フェルト製の靴があったのでしょうね。

「まだ蒙古人の天幕に使ふフエルトも貰ひましたが………………」。

明治四十三年に、夏目漱石が発表した『門』の一節。
「主人」が宗助に対して言う言葉として。
つまりフェルトは靴にもテントにも応用が効くということなのでしょう。

「………黑いフェルト帽を眞深に冠つた老提琴家の姿が裏口から出て來た。」

十一谷義三郎が、大正十二年に発表した『花束』の一節。
もちろん帽子にはフェルトは欠かせないでしょう。

「だれやら入ってきて、身体についた雪を払い落しながら、フェルトの長靴をどたどたと踏み鳴らした。」

ロシアの作家、チェホフが、1886年に発表した『旅中』にも、フェルトが出てきます。
つまり、フェルト製のブーツなんでしょうね。
『旅中』は、とても当時から好評だった短篇だということです。
また、『旅中』には、こんな描写も出てきます。

「………紳士風の背広に、フラシテンのチョッキを着て、黒い幅広ズボンの裾を大きな長靴の中に折りこんでいた。」

これは宿にあらわれた客の着こなし。
「フラシテンのチョッキ」。
ここでのフラシテンは、プラッシュのこと。プラッシュに対する日本語。
プラッシュをひと言で説明するなら、「毛足の長いビロード」。
プラッシュはまた、シルク・ハットの素材でもあります。
どなたかフラシテンのチョッキを仕立てて頂けませんでしょうか。

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