シャブシャブは、美味しいものですよね。たいていは、薄切りの牛肉を使います。
鍋に水を張って、沸かし、この中で軽く薄切り牛肉を泳がせてから、口の中へ。このような肉の食べ方も他にもあるのでが、「シャブシャブ」という名前は日本だけのものでしょう。
昔、ニュウヨークで、ある日本人が、どうしてもシャブシャブが食べたくなって。考えた末、思いついた。懇意にしている肉屋に行って。生ハムのスライサーで、牛肉の塊を薄く切ってもらった。大成功だったそうです。
かの石津謙介も、シャブシャブがお好きだった。ただし、あらかじめつくっておいた出汁の中に、極上の肉をくぐらせる。
出汁にネギの細切り、薄口醤油を少々。この中に牛肉をシャブシャブとやって、召し上がったんだそうですね。
石津謙介著『大人のお洒落』に出ている話なのですが。『大人のお洒落』には、ザクースカのことも。
「もうかれこれ四十年も前、中国の天津にいた頃、ロシア人の恋人がいつも作ってくれた。」
そんなふうに書いています。『大人のお洒落』が出たのが、1992年のことですから、ざっと七十年ほど前の想い出でしょうか。いや、ほんとうは、もっと以前のことかも。それというのも、戦前の話ですからね。
石津謙介著『大人のお洒落』は、私には必読書です。枕頭書であります。
「新聞や雑誌に出てくる政治家の大モノや一流の財界人の写真を見ると、ほとんどのお方がカラーサイズの合わないシャツをおめしになって平気なのに驚く。」
「シャツ」の項目の中で、石津謙介はそのように書いています。やがて三十年後の今でも、諸手を挙げて、大賛成です。
カラーと頸の間に二本の指が入るくらいに。これがカラー・サイズの標準だとされます。が、これはあくまでも「標準」なのであって。
大切なことは、カラーとネックとの「一体感」なのです。頸の外側で、襟が自然に見える。カラーの内側で、ネックが自然に見える。
そうでなくては、「ジャスト・フィット」とは言えないのであります。
今からほぼ三十年のむかし、まことに言いにくいことを言ってくださった石津謙介に、最大の感謝を贈りたいものです。