スナップは、パチンのことですよね。
「スナップ」 sn ap と書いて、スナップ。どうもオランダ語の「スナッペン」 sn app en から出ているらしいのですが。
「パチン」という擬音ならどこにだってあるわけで、「スナップ」もいろんなところで使われます。たとえば手頸の「スナップ」を効かせる、だとか。
あるいはまた、「スナップ写真」。パチンと写すから、「スナップ写真」なんでしょうか。
さらには、ボタン代りのホックのことも、「スナップ」。正しくは、「スナップ・ファスナー」でしょうか。よく女の子のブラウスの手頸などにも付いています。
上下を、圧して留めるところから、「プレス・ボタン」ともいうんだそうですね。
もともとはドイツで考案されて。日本には昭和八年頃に、輸入されたらしい。
スナップ・ファスナーは、凹型と凸型との小さな円盤であって、これを圧し合わせることで、密着する仕組み。凹型を「ディスク」、凸型を「スプリング」と呼んだりもするんだそうですが。
古い時代には、俗に「パッチン」とも言ったらしい。なるほど留めるとき、「パチン」と音がしますものね。もし「スナップ」が擬音から来ているとすると、「パッチン」もまた擬音。擬音には擬音の言葉が似合うのかも知れません。
スナップで、服飾用語でといえば、「スナップ・ブリム」。もちろんソフト・ハットの一種ですね。ソフト帽の鍔を「パッチン」してかぶるから、「スナップ・ブリム」なのでしょうか。
より正確には、「粋に捻った鍔」の意味でしょう。いずれにしても、「スナップ・ブリム」は帽子用語において、よく用いられる表現ですね。
スナップ・ブリムが出てくるミステリに、『愛しき女に最後の一杯を』があります。ジョン・サンドロリー二が、2013年に発表した物語。
「車が動き出し、リアウインドウのなかで揺れる粋なスナップブリム・ハットがゆっくりと視界から消えていった。」
これは物語の主人公で、パイロットの、ジョー・ブオノーモが、空港で、フランク・シナトラを見送っている場面。
また、『愛しき女に最後の一杯を』には、こんな描写も出てきます。
「ヘレンがあそこにいたのならば、ズートスーツの犯罪王も見えないところいたということだ。」
ヘレン・カスターノは、ハリウッド女優という設定。また、「犯罪王」とは、ジョニー・ロッセリーという人物。
ズート・スーツは1940年代の、アメリカに生まれた、極端なスタイルの、ファッド。z o ot s u it と書いて、「ズート・スーツ」と訓みます。
広すぎる肩、長すぎる上着丈。太すぎるトラウザーズ、細すぎる裾口。
1940年代のアメリカには、大戦の影響で、国が極端な節約令を出した。なるべく生地も、糸も使わないように、と。トラウザーズのカフが省略されたのも、節約令のせいだったのです。
その国家の節約令に、ことごとく違反したファッションが、「ズート・スーツ」だったのです。
その点、スナップ・ブリムだけは、いくら粋に恰好つけても、違反にはなりませんからね。