イギリスとイーデン・ハット

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イギリスは、イングランドのことですよね。
でも、これは乱暴この上ない発言で、たぶんお叱りを頂くに違いありません。
イングランドがあって、スコットランドがあって、アイルランドがあって、それにウエールズを加えて、「イギリス」と考えるべきなのでしょう。
まあ、そんなことはないにしても。彼がスコットランド人であるのに、「イギリスの方ですね?」と呼びかけたなら、たぶん顔色が変わるに違いありません。
そもそも、「イギリス」の言い方。これはもともとポルトガル語の「イングレス」Inglês の日本語化からはじまっているんですってね。
そしてイギリスの宛字として、「英吉利」が用いられたりも。

「こう暑くては猫といえども遣り切れない。皮を脱いで、肉を脱いで、骨だけで涼みたいものだと、英吉利のシドニー・スミスとか云う人が苦しがった云う話があるが………………」。

夏目漱石の『吾輩は猫である』にも、そのように出ています。
シドニー・スミスは、1771年6月3日。イングランド、エセックス州ウッドフォードに生まれています。聖職者であり、その一方で文筆家でもあった人物。
「皮を脱いで、肉を脱いで、骨だけで涼みたい………………」
これなども、いかにもイングランドらしいユウモア なのでしょう。
イングランドが出てくるミステリに、『死が二人をわかつまで』があります。1944年に、ジョン・ディクスン・カーが発表した物語。

「みずみずしい緑、燃え立つようなイングランド。白いフランネルと、もの憂い午後のイングランド。」

これはイングランドの劇作家、リチャード・マーカムの呟き。
リチャード・マーカムの説に従えば、イングランドは田園の緑と、フランネルの白とで構成されているのでしょうか。これに紅茶のオレンヂ色が加われれば、美しい配色になるに違いありません。
『死が二人をわかつまで』には、こんな描写も出てきます。

「アントニーイーデン帽ときちんとしたダーク・ブルーのスーツが遠くなるまで、ミドルズワースは見送った。」

このアントニー・イーデン帽の持主も、リチャード・マーカムのもの。
「アントニー・イーデン・ハット」は、黒のホンブルグの別名。イングランドではよく使われる言葉です。もちろんイングランドの首相でもあった、ロバート・アントニー・イーデンが愛用したところからの、名称であります。
アントニー・イーデン・ハットで、イングランドを旅するのは、夢物語ではありますが。

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