コップとコルセット

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コップは、カップのことですよね。時と場合によって、「コップ」ともいい、「カップ」ともいいます。
たとえば。「コップ酒」とは言いますが、「カップ酒」とはあまり言いません。同じように「優勝カップ」とは言うでしょうが、「優勝コップ」とは言いません。
「コーヒーカップ」と言って、「コーヒーコップ」とは言わない。むしろ「珈琲茶碗」のほうが自然でしょう。「カップケーキ」とは言いますが、「コップケーキ」とは言わないでしょう。
コップは、オランダ語の「コップ」k op から出た言葉。カップは、英語の「カップ」c up から来た言葉。日本語での順序としては、「コップ」のほうがはるかに古く、「カップ」は明治以降のことであります。
コップが出てくる名作に、『脂肪の塊』があります。フランスの作家、ギイ・ド・モオパッサンが、1880年に発表した傑作。原題もまた『ブウル・ド・シイフ』B o ul e D e S u if 。
『脂肪の塊』は、モオパッサンにとっても出世作でありました。これ以降、モオパッサンの文名が高まってゆくのです。
1880年、『脂肪の塊』が世に出た時。師匠のフロベエルはモオパッサンに筆を執って。
「これは後世に遺る傑作となるだろう………………」。
そんな意味の褒め言葉を贈っています。フロべエルの予言は美事にあたったわけですね。

「まず小さな瀬戸物皿と薄手の銀のコップと、それから大きな蓋物とり出した。」

これは物語のはじめの部分。戦争から逃れる乗合馬車の中で。ブウル・ド・シイフが、食料の詰まった籠を開ける場面。
この、ブウル・ド・シイフは、実在の女性。本名、アドリエエヌ・ルゲエ。その仇名が、「ブウル・シイフ」。ルーアンでは有名な存在であったらしい。
モオパッサンは友だちから偶然ブウル・ド・シイフのことを聞いて、『脂肪の塊』の構想を想いついたという。その時にはモオパッサン、彼女には会ってはいなかった。
でも、晩年のモオパッサンはたまたま、ブウル・ド・シイフと、すれ違うことがあったらしいのですが。
また、『脂肪の塊』には、こんな描写もあります。

「ひどく痩せぎすの背の高い金髪の青年で、コルセットをはめている若い娘みたいにきっちりした軍服をつけ………………」。

これは旅の途中。夜。ここでとりあえず、一泊する場面。
物語の背景は、1870年代でしょう。その時代には男が細身の服のために、コルセットを嵌めるのは、別段珍しいことではなかったのです。つまり、コルセットはなにも女性のためばかりではなかったのであります。
今、コルセットはしませんが。細身の服で、コップ酒は………………。

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