アペリティフとアルパカ

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アペリティフは、食前酒のことですよね。
食事の前に傾ける酒なので、「食前酒」。食前酒ならぬ、「食前書」を考えたお方が、神吉拓郎。
食前に読む本のこと。たとえば。丸谷才一の『食通知ったかぶり』だとか。吉行淳之介の『贋食物誌』だとか。吉田健一の『舌鼓ところどころ』だとか。そんな「食前書」を読んでいると、猛然と食欲が。そこで食卓につくと、さらに美味しく食事が愉しめたのでしょう。
『たべもの芳名録』。神吉拓郎にも当然「食前書」があるのですが。神吉拓郎自身、食通でありましたからね。
まず、食前酒がありまして、テーブルに。テーブルではワインなどを飲むことになるのでしょう。「食中酒」。
美味しい食事が終りますと、コニャックなどを。「食後酒」であります。つまり、大きく三つに分けますと。食前酒があって、食中酒があって、食後酒で締めくくるわけです。

昭和五十年のベストセラーに、『新西洋事情』があります。当時、「日本航空」の社員だった、深田祐介の著書。この中に「食前酒」の話が出てくるのです。

「シェリーかなにかの食前酒をなめて雑談していると、まもなくヨーロッパ一流のレストランならではの光景が展開します。」

「光景」とは、ウエイターがうやうやしくメニューを持ってくる様子。
場所は、ロンドン。深田祐介はエライさんをおもてなしする立場。なるべく、失敗がないように。
深田祐介の「作戦」としては、エライさんには「ヒルトン・ホテル」にお泊まり頂いて。レストランは、「ミラベル」へ。ヒルトン・ホテルからミラベルは、歩いて十分ほど。
この十分間に、深田祐介は「失敗談」をいくつか、ごくさりげなく。
うんと間接的にエライさんに「常識」などについて。たとえば、ミラベルで「食前酒は?」尋ねられて、「ビール!」などと言って頂かないように。
深田祐介の『新西洋事情』によりますと。ロンドンの一流レストランで、食前酒にビールを頼むのは、東京の老舗料亭で、「養命酒」と叫ぶのに似ているんだとか。
まあ、なにかと食前酒ひとつについても、ご苦労がおありだったのでしょうね。
アペリティフが出てくる本に、『ふらんす物語』』があります。永井荷風が、明治四十一年に書いたものです。

「貞吉はフランス人が食慾をつけるとか云つて、きまつて食事の前に飲むアペリチフの一杯。其勘定にと給仕人を呼んで二十フランの金貨を崩させた。」

荷風は、『ふらんす物語』のなかに、そのように書いています。「貞吉」は、荷風自身のことかと思われます。明治四十一年の「アペリチフ」は、わりあいとはやい例ではないでしょうか。少なくとも荷風が明治四十一年になんらかのアペリティフを飲んだことは、間違いないでしょう。
アペリティフが出てくる小説に、『ムッシュー』があります。1986年に、フランスの作家、ジャン=フィリップ・トゥーサンが発表した物語。

「壮年の紳士たちがアペリチフを飲み、オリーブやピーナッツをつまんでいる。」

これは、とあるホテルのバアでの様子として。
また、『ムッシュー』には、こんな描写も出てきます。

「………洒落たグレーのアルパカの上下、白いシャツに蝶ネクタイという姿に変身していた。」

同じアパルトマンの隣人、「カルツ」の着こなしとして。
アルパカ alp ac a はもともと動物の名前。ヴァイキューナにも近い動物。ヴァイキューナよりは少し大きい動物で、やはり高山を好む性質を持っています。
そのために、極細の繊維が得られるのです。およそ20ミクロン前後の直径だと考えられています。つまりは繊維としては、ヴァイキューナに次いで貴重な品質でもあるのです。
どなたかアルパカでスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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