スコッチとスポーラン

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スコッチは、「スコットランドの」という意味ですよね。「スコッチ・ウイスキイ」というではありませんか。
そうかと思えば、「スコッチ・エッグ」だとか。スコッチ・エッグは、茹で卵と挽肉の料理。茹で卵を挽肉で包みまして、パン粉をつけた揚げた食べ物のことなんだとか。
スコッチ・エッグは一例で、スコッチのつく言葉も少なくないようですね。
広く知られているところでは、「スコッチ・テープ」。この「スコッチ・テープ」のはじまりは、1928年頃の、ミネソタ州で。自動車塗装の、マスキング・テープとして。このテープ、両端だけに糊を。
ところが、ある客が「途中で剥がれる」として、返品。その時の売り言葉が、「スコッチ・テープ!」。客のほうでは「ケチなテープ」の意味だったらしいのですが。この客の苦情をそのまま商標登録にして、「スコッチ・テープ」となったんだそうですね。

スコッチはまた、「スコッチ・トゥイード」の意味でもあります。

「………赤毛の入りたる蘇格の背廣を着たる一人の男が……………。」

明治二十一年に、須藤南翠が書いた『緑簑談』に、そのような文章が出てきます。須藤南翠は、「蘇格」と書いて「すこつち」のルビを添えてあります。この場合のスコッチは、トゥイードのことかと思われます。
つまり、明治期の「スコッチ」はむしろトゥイードのことで、スコッチ・ウイスキイを指すようになるのが、もっと後のことではないでしょうか。

「このコーラスを聞き、このスコッチ・ウイスキーを飲むだけでも、今度の南方旅行は無意味ではなかった、という気がするのである。」

徳川夢声著『夢声戦争日記』に、そのように出ています。昭和十八年一月十二日。火曜日のところに。ここに「コーラス」とあるのは、同じ船にオランダ兵が乗っていて。オランダ兵は夜になると、実によろしいコーラスを歌って聴かせてくれたんだそうです。
それはともかく、昭和十八年には、「スコッチ・ウイスキイ」の言い方があったのでしょう。そしてまた、戦後になって、スコッチ・ウイスキイが短くなって、「スコッチ」となったのではないでしょうか。

1934年に、スコットランドに旅したイギリス人に、エドウィン・ミュアがいます。エドウィン・ミュアは、古い自動車を運転して、エディンバラを出発しているのですが。その見聞録は、『スコットランド紀行』に収められています。

「ロブ・ロイのバッグとスポランと太刀と短刀……………。」

これは旅の途中、「アボッツフォード館」を訪ねた記録。アボッツフォード館は昔のウォルター・スコットの住まいで、今は博物館に。スコットが長年かけて蒐めたコレクションが展示されているところ。そこにロブ・ロイの「スポラン」があったと。橋本槇矩訳では、「スポラン」になっているのですが。
ロブ・ロイは、十八世紀はじめの、スコットランドの英雄。そのロブ・ロイのスポーランなら、貴重品でありましょう。
スポーラン sp orr an は、男性用の鞄。「ヒップ・バッグ」。腰の前に下げておくので。
一説に、キルトが風に吹かれないための「重し」の役目であるとも。ふつう、革製スポーランが普段用。毛皮製が正装用とされるんだそうですね。
どなたかスーツにも使えるスポーランを作って頂けませんでしょうか。

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