タヴァーンとダブレット

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

タヴァーンは、宿屋のことですよね。昔のタヴァーンは、居酒屋でもあったらしい。
t a v ern と書いて、「タヴァーン」英語では、1286年頃から用いられているとのこと。
もともとはラテン語で、「小屋」を意味する「タベルナム」t a v ern am と関係があったらしい。もし「小屋」であるなら、それが「居酒屋」になったり、「宿屋」になったりすることもあったでしょう。
日本でも古くは、「旅籠屋」。かの『南総里見八犬伝』にも、旅籠屋が出てきます。
天保十三年に、曲亭馬琴が完成させた長篇。フランスの『失われた時を求めて』にも、劣らない大長篇であります。

「…………ここらは無下の寒村なれば、よき飯店を得がたからん。」

そんな一節が出てきます。曲亭馬琴は、「飯店」と書いて、「はたごや」のルビを添えているのですが。なんだか中国でホテルのことを「飯店」と呼ぶにに、似ていますね。

「多摩川の二子の渡をわたつて少しばかり行くと溝口といふ宿場がある。其中程に龜屋といふ旅人宿がある。

明治三十一年に、國木田獨歩が発表した『忘れえぬ人々』の第一行が、これです。國木田獨歩は、「旅人宿」と書いて、「はたごや」とルビを振っています。少なくとも明治の頃までは、「旅籠屋」がごくふつうに用いられたのでしょう。

タヴァーンが出てくる小説に、『カンタベリー物語』があります。十四世紀に、チョーサーが発表した物語。というよりも『カンタベリー物語』は英国での「小説」の走りではないか、とも言われているものですね。

「ロンドンの南の地区の、スースウェルクというところにあった「陣羽織」という宿屋にとまって、そこで巡礼の支度をした。」

チョーサーの『カンタベリー物語』には、そのような文章が出てきます。ここでの「宿屋」の原文は、「タヴァーン」になっています。
ところで、その旅籠屋の名前は、「ザ・タバード」で、当時、ほんとうにあったんだそうですね。タバードt a b ard は、「陣中着」のこと。昔の英国の侍が、鎧の上に羽織った、チョッキにも似た上着のこと。多くは主家の紋章が大きく入れられていた。
『カンタベリー物語』は、この「ザ・タバード」に集ったカンタベリー大聖堂への参拝者が語る物語という設定になっています。日本に近い例を探すなら、「お伊勢参り」でもあるでしょうか。
騎士や粉屋や、料理人など二十九人が、それぞれに物語る仕組なのです。面白くないはずがありませんよね。

タヴァーンが出てくる小説に、『白薔薇と鏡』があります。1991年に、ポール・ドハティが発表した物語。ただし、時代背景は十五世紀の英國におかれているのですが。

「イプスウィッチじゅうの宿屋や飲み屋に広めてやったから。」

ここでの「宿屋」の原文は、「タヴァーン」になっています。なお「飲み屋」は、「エールハウス」。また、『白薔薇と鏡』には、「タヴァーン」が何度も出てきます。
『白薔薇と鏡』には、こんな文章も出てくるのですが。

「襟とカフスのぐるりに刺繍のついた輝くローン地のシャツ、豪華な赤い金襴地の胴着、暗色ベルベットのズボンに赤の純毛マント。」

「胴着」の原文は、「ダブレット」d o ubl et になっています。
ここでの「ダブレット」は、もともと「鎧下」のこと。そのため、キルティングが施されていたものです。身体にフィットして、ショート・レングス。ウエスト下から裾が拡がったスタイルの上着だったのです。
どなたか現代版のダブレットを仕立てて頂けませんでしょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone