少年と正チャン帽

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少年は、若い男の子のことですよね。小さな年なので、「少年」なんでしょうか。
大きな年だと、「大年」。老人と言われるよりも、「大年」のほうがよいかも知れませんが。
少年は英語なら、「ボーイ」b o y でしょうか。b oy にもいろいろありまして。古い、俗に言い方に、「ザ・ボーイ」。これはシャンパンのこと。どうして「ザ・ボーイ」がシャンパンなのか。その昔、英國でハンティングの折に、少年に冷えたシャンパンを持たせておいて。狩猟の合間に、口を潤した。それで、「ザ・ボーイ」がシャンパンの意味に。
やや特殊な「ボーイ」としては、シェイクスピア劇での「ボーイ」があります。日本でいうところの「女形」。シェイクスピアの時代もまた「女優」はご法度。女性の役は皆、少年が演じたからであります。
女のボーイもあれば、年配のボーイもいます。たとえばバアやレストランにも「ボーイ」はいます。でも、そのボーイのすべてが少年とは限らないからですね。

「………ボイがメンチボーですかと聞き直しましたが、先生は益眞面目な貌でメンチボーぢやないトメンチボーだと訂正されました……………。l

夏目漱石の『吾輩は猫である』に、そのような一節が出てきます。たぶん「先生」は「トメンチボー」が正しい名前だと思っていたのでしょう。
夏目漱石は文章の中でも、実際の生活のなかでも、「ボイ」だったようですね。言葉とはうつるもので、内田百閒も「ボイ」 派だったらしい。少なくとも文章の上では「ボイ」とお書きになっています。

少年小説を多く書いたお方に、小川未明がいます。少年小説。別の表現なら、「童話」でもあるのかも知れませんが。

「正ちゃんは、どこから持ってきたのか、短い鉄棒を土の中に埋めていました。」

昭和のはじめに、小川未明が発表した少年小説に、『正ちゃんの鉄棒』があります。
「正ちゃん」と名づけられた少年は、鉄の棒を地面に埋めて、そこからの音を聴いているのです。まあ、これこそ少年のしそうなことで、並の大人はまずいたしません。
昭和のはじめ、小川未明は少年の名前を「正ちゃん」としています。それより先に人気のあったのが、「正チャン」。この「正チャン」は童話ではなくて、漫画。
正しくは、『正チャンの冒険』。
大正十一年に、『正チャンの冒険』ははじまっています。4コマ漫画。その年に創刊された『日刊アサヒグラフ』に連載されて、大人気。物語を書いたのが、織田小星。絵を添えたのが、「東風人」。「東風人」は、筆名。本名は、樺島勝一でありました。
樺島勝一は明治二十一年七月二十一日。長崎市諫早市に生まれています。
『正チャンの冒険』の中での正チャンは、いつもオレンジ色のニット帽をかぶっているのです。そこから生まれたのが、「正チャン帽」なのですね。細かいことを申しますと、「正ちゃん帽」ではなくて、「正チャン帽」なのでありますが。どなたか正統の「正チャン帽」を編んで頂けませんでしょうか。

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