ソックスは、靴下のことですよね。もし靴が上着だとすると、靴下はそれに対する「下着」ということになるのかも知れませんが。
socks と書いて、「ソックス」。古代ギリシアにも、今のソックスに似た軽い靴があったらしい。「コトルヌス」。このコトルヌスこそ、靴下の起源である、との説もあるようです。
コトルヌスは、当時の喜劇役者が舞台で履いた衣裳のひとつ。ですから、ある演者がコトルヌスを着けていると、もうそれだけで喜劇役者だと分かったわけですね。
靴下の存在がなにか喜劇的であるのも、その出身と関係があるのでしょうか。
靴下にも大きく分けて二種類がありまして。口ゴム入りと、口ゴム無しとの。だいたい、戦前までの靴下は、口ゴム無しが多かったようですね。戦後になってからの靴下は、口ゴム入りが普及したような記憶があります。
「紫さん、團先生に靴下止めをプレゼント致しましょう」
團伊玖磨著の随筆、『又パイプのけむり』に、そんな会話が出てきます。
藤間流の師匠だった、藤間勘十郎の言葉として。ここに「紫さん」とあるのは、奥様でもあった、藤間 紫のことです。
場所は、大阪でのこと。團伊玖磨が、藤間ご夫妻と歩いていて、靴下が落ちてきそうになって。そのことを藤間勘十郎に伝えたら、そんな会話になったんだそうです。
1960年代末には、靴下留めが珍しくはなかったことが窺えるに違いありません。
靴下留め。イギリス英語では、「ソックス・サスペンダー」となります。
同じく團伊玖磨の随筆集『なおパイプのけむり』には、『黒ソフト』の章題が含まれているのです。
「音楽学校の制服は、当時は、男は黒背広に、黒ネクタイ、帽子は黒のソフト帽………」
そのように書かれています。時は、昭和十七年の四月。東京、上野の音楽学校でのこと。
この制服の影響から、以来ずっと黒のソフト帽の愛用者だったそうです。
世界中の名店で、黒いソフト帽を探したほど。その結果、どんなことになったのか。
「そして、黒ソフトを被る時、僕は何時も、勉強しよう、と考える。」
うーん。帽子が人に与える影響はけっして少なくないのですね。