ホテルは、西洋宿屋ですよね。ホテルでの生活は、快適そのものであります。
朝、目が覚めると、熱いコーヒーが届けられていたり。あるいはまた下に降りてゆけば、カフェもあり、レストランもあります。
昼にグラス・ワインを傾け、チキン・ドリアを頂き。また部屋に戻って、昼寝。そんな極楽気分をも味わえるでしょう。
「ああ、ホテルに住んでみたいなあ」と思う瞬間でありましょう。
実際にホテルに住んだお方に、往年のテノール歌手、藤原義江がいます。晩年の藤原義江の自宅は、「帝国ホテル」だったのです。
藤原義江はまた、洒落者としてもよく知られていること、ご存じの通り。
アメリカ、ニュウヨークでの例を探してみますと。ミステリ作家の、ウイリアム・アイリッシュが終生、ホテル暮らしでありましたーウイリアム・アイリッシュは、ホテルに住み、ホテルで小説を書いた人物なのです。
小説の世界では、『オールド・ミスター・フラッド』があります。1948年に、ジョゼフ・ミッチェルが発表した創作。
『オールド・ミスター・フラッド』の主人公は、ヒュー・G・フラッド。九十三歳の、お金持ち。フラッドさんは、「ハートフォード・ハウス」に住んでいるのです。
日本語訳者の常盤新平は「解説」の中で、このように書いています。
「フラッドさんが住むところは、パール・ストリート三0九番地のハートフォード・ハウスという古いホテルだ。」
ホテルは実在するのでしょうが、フラッドさんは、架空の人物。ただし、著者のミッチェルに何人かのモデルがいたのも、事実でしょう。
主人公のフラッドさんは、「魚介食主義者」。魚介だけを食べて百十五歳まで生きるのが、目標。
それだけに趣味もいっぷう変わっていて。
「ご自慢のコレクションの一つは淡水産イシガイの貝殻である。」
このイシガイの貝殻からは、シャツのボタンなどが作られるという。
では、フラッドさんはどんな服装なのか。
「身なりは古風だ。たいていは高くて固いカラーに明るい縞のシャツ、サージの三つ揃いに山高帽。」
この「シャツ」は、ホワイト・カラア・シャツかと思われます。
昔のシャツは、襟が付け襟になっていたので。
今に見頃の色柄とは関係なく、白のカラアにするのを、「ホワイト・カラア・シャツ」と呼ぶのです。
どなたか絹のホワイト・カラア・シャツを仕立てて頂けませんでしょうか。