スーツとスリッカー

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スーツは、背広のことですよね。スーツは略語で、もともとは「ラウンジ・スーツ」と言ったものです。
アメリカ英語では、「サック・スーツ」。まるで袋のようにゆったりした服装なので、「サック・スーツ」。なぜなら、それ以前のフロック・コートなどが、細く窮屈に仕立てられていたからです。
スーツsute もともとの意味は、「揃い」。上着とチョッキ、ズボンの生地が同じく揃っているので、「スーツ」。
十九世紀までの紳士服には、上下揃いの考え方は存在しなかったからですね。

スーツが出てくる小説に、『縮図』があります。昭和十六年に、徳田秋聲が発表した物語。

「加代子は水色のスーツを着て、赤い雨外套を和服の女中の腕に預け………」

徳田秋聲の『縮図』は、銀座での食事の場面からはじまります。その第一行に。

「晩飯時間の銀座の資生堂は、いつに変らず上も下も一杯であつた。」

ここから明治はじめの銀座の歴史が語られるわけです。

「………この食堂も化粧品が本業で、わづかに店の余地で縞の綿服に襷がけのボオイが曹達水の給仕をしてをり………」

そんな当時の様子も語られるのですが。

スーツが出てくる自伝に、『アーサー・ミラー自伝』があります。

「クーリッジは黒のビジネス・スーツにグレーの中折帽、のりのきいた高いカラーにネクタイといういでたちで………」

クーリッジは当時アメリカ大統領だった人物。アーサー・ミラーがまだ少年だった頃の話として。

また、『アーサー・ミラー自伝』には、こんな場面も出てきます。

「車内で二人が寝るのは無理だったので、私はトランクから黄色のスリッカーを引っぱりだし、ラッセルに席をゆずった。」

これは青年時代のアーサー・ミラー。車の中で野宿する場面。
ここでの、「スリッカー」slicker はレインコートのこと。これまた、アメリカ英語。イギリス人なら、「マッキントッシュ」を想起するところでしょう。
もちろんゴム引き布。イギリスでは、布の裏にゴム地を張ることが多いのに対して、アメリカではふつう、表にゴム地を張るのが、一般的です。
どなたか現代版のスリッカーを仕立てて頂けませんでしょうか。

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